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2017-11-05 00:00
(連載3)「脱炭素社会」構築に向けた提言
廣野 良吉
成蹊大学名誉教授
このような2020年以降のGHG削減目標の早期達成を含む脱炭素社会構築のための長期戦略は、当該年の一次エネルギー構成の大幅な変更やGDP生産単位当たりのエネルギー節約の加速化を迫るが故に、一方で急速な技術革新による再生可能エネルギーコストの低減と、他方ではエネルギー節約を含めた人々の生活様式の変化を促す持続可能な開発のための教育(UNESD2005-14:このプログラムは2002年の国連持続可能な開発首脳会議でわが国のNGOと政府の共同提案として提出後国連総会で採択された)を通じた価値観の変化が不可欠である。これらの変化を円滑かつ着実に推進するためには、金融・財政政策、税制、雇用政策を含む広範な産業政策の転換を主軸とする経済的奨励施策・制度の導入と、法的・行政的規制・制度の強化が不可欠である。具体的には、現行の地球温暖化税(炭素税)の大幅な引き上げや自主的・限定的なGHG排出権取引制度の本格的・普遍的導入、生産技術・流通過程における省エネ化、再生可能エネルギーの普及、炭素の付加価値化、吸収源としての森林の拡大、電気・燃料電池自動車の普及、公共交通網の拡充、学校等公共建物施設や居住家屋のグリーン化、職住接近等による実効力ある脱炭素社会への移行の加速化が必要となる。これらの政策や制度の変更に伴う各地域、各職業、各教育階層、各所得階層、各年齢階層への影響は、当然ながら異なるが故に、ガバナンスの基本である政策・制度決定過程におけるあらゆるステークホルダーの参加、透明性、負託責任(アカウンタビリテイー)、ジェンダー平等を含めた公平性、効率性、効果性等の原則(武蔵野市方式TAPES)は貫徹されなければならない。
脱炭素社会の構築に向けた長期戦略は、一方で 気候変動、地球温暖化の悪影響を最低限に抑制するための戦略だけではなく、他方では、その戦略がもたらすであろう人間社会にとって肯定的・積極的側面をも描き出すことが必要である。それによって、国民大衆を含めた総てのステークホルダーは、かかる中長期戦略の導入への否定的ないし批判的姿勢を見直すだけでなく、その戦略を梃に新しい技術、製品、生産・流通工程、付加価値、産業発展の潜在力を認知し、脱炭素社会の構築に積極的に参加することになる。政府、自治体はこのようない革新的潜在力の育成・発展を経済的手法、規制的枠組みをフルに活用して、国民全体の中長期的利益を増進する低炭素・脱炭素社会の構築を促進することが必要である。
我が国の脱炭素社会構築への長期戦略の策定における日本国民一般を含めた総てのステークホルダーの積極的な参加を可能にするためには適切な制度・仕組みの導入が国家レベルと地方自治体レベルで不可欠である。国家行政的には、従来実施されてきた政府原案に対するパブコメに加えて、SDGs国内実施計画策定過程で昨年採用された内閣総理大臣を議長とする関係閣僚・ステークホルダー会議を早急に設立し、産業界、学界、労働組合、市民社会組織の代表の参加のもとで草案を作成すると共に、国会衆参両議院政策委員会に脱炭素社会構築長期戦略部会を設け、民間コンサル代表者、研究所代表者、地方自治体首長等を招集した公聴会を通じて、広く国民各層の本戦略課題に関する政府原案への意見表明を求め、本戦略の国会同意を得る。さらに、地方自治体では、首長を議長とする脱炭素地域社会構築のための行政委員会や地方議会での同種委員会の設置を通じた、それぞれの地域社会の住民代表が参加し、当該地域住民のニーズ・条件に合致した長期戦略の策定が不可欠である。
さらに、我が国の脱炭素社会構築への長期戦略の策定における日本の総てのステークホルダーの積極的な参加を実効あるものにするためには、諸々の代表者会議へ参加する人々はもちろんのこと、それらを背後で支える国民大衆の本戦略課題についての理解を増進するための可視化が不可欠である。現時点での科学技術によって可能な限り、前世紀から今世紀にかけてと2020年以降の気候変動とその地球上のすべての生命、人間社会への短期的・中長期的影響を図表、動画でもって可視化する必要性を強調したい。その可視化の一環として、小生は、1992年の地球サミット以来顧問として深く関わってきたNPO法人「国連クラシックライブ協会」のご協力で、「地球憲章」に基づいた環境ミュジカル「Our Blue Planet」を2000年以降既に60回上演し、今年はカナダの建国150周年記念公演を首都オッタワにて、国際交流基金や民間企業のご支援を得て上演してきた。この音楽劇公演を通じて、貧困撲滅、人権擁護、地球環境の保全、核なき平和を、音楽、舞踊、物語、討論により、観客の頭や心に訴えるという文化芸術がもつ偉大な神通力を再認識すると共に、各地公演先の人々が舞台へ登場するという参加型ミュジカルがもつ偉大な共感・共鳴力を痛感していることを特記したい。(おわり)
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