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2009-03-18 00:00
外交戦略としてのソマリア海賊対策
鍋嶋 敬三
評論家
ソマリア周辺海域での海賊対策として自衛隊法に基づく海上警備行動が発動され、海上自衛隊の護衛艦2隻が3月14日出航した。政府はその前日、海賊対策で随時自衛隊を派遣できるようにする海賊対処法案を国会に提出した。自衛隊派遣は日本国民の生命と財産を守るため当然で遅きに失したくらいである。派遣は「国際社会の一員としての責務を当然に果たす」(麻生太郎首相)という外交戦略上の重要な役割を担っている。海賊対処法案は国連海洋法条約に沿ったものである。ソマリア沖・アデン湾の海賊行為に対しては、ソマリア情勢を悪化させている要因として国連安全保障理事会決議(1816号)で各国に軍艦などの派遣を要請した。欧米諸国を中心に十数カ国が参加しているが、中国も軍艦を派遣し大国としての存在感を誇示した。石油など資源の大部分を輸入に頼る日本が積極外交を展開する上で海賊対策は不可欠な要素となっている。日本の国益の観点からも対処法案を早期成立させなければならない。
内閣府の世論調査(3月14日発表)によると、63%の人が自衛隊派遣による海賊対策を肯定的にとらえている。国民の理解はかなり進んでいるようだ。国際海事局(IMB)が1月に発表した統計によると、2008年に世界で乗っ取られた船は49隻、乗組員889人が人質になったが、ほとんどがソマリア沖・アデン湾に集中している。日本企業が運航・管理する商船の被害も増えている。国連海洋法条約はすべての国が海賊行為の抑止に協力することを定めている。日本にとっても対処すべき脅威として緊急性が高かったにもかかわらず、政府の対応は遅れた。自衛隊の海外派遣については公明党の消極姿勢が働いて与党としての意思決定が先延ばしにされてきた。
ねじれ国会の下、衆院で再議決できる3分の2以上の勢力を擁しながら法整備を怠ってきた。自衛隊の海外派遣の原則を定める一般法(恒久法)もいまだに実現していない。その付けが次々と回ってくる。インド洋での給油継続のための新テロ対策特別措置法も昨年秋失効し、年末に再可決するまで補給活動が途切れ、国際社会からは日本のテロ対策の真剣さに疑問符が付けられた。ソマリア沖への派遣について米国が歓迎声明を出したが、派遣が対処法案成立まで先延ばしされていたら、オバマ政権の日本を見る目は厳しいものになっていただろう。
海賊対処法案を巡って民主党が対応を決められないでいる。成立に積極的な前原誠司前代表ら保守系と極めて慎重な旧社会党系との間で意思統一ができない。西松建設の献金疑惑の渦中の人となった小沢一郎代表は党内とりまとめの意思を示そうとしていない。「恒久法への地ならし」と反対する社民党などとの野党共闘への思惑もあろう。しかし「第7艦隊で十分」「日本自身が役割分担」などの小沢発言は、民主党が政権を取ったその日から試練に立たされる安全保障政策についての見識を疑わせるのに十分であった。国際平和協力活動が自衛隊の本来任務になってから早くも1年が過ぎた。しかし、国会での安保論議は武器使用基準の緩和の是非などの側面に偏りがちだ。日本の国益を守り、国連安保理理事国として国際社会に対する貢献という視点が欠けていては外交の責任を果たすことはできない。
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