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2009-05-12 00:00
北朝鮮の強硬策の裏にあるもの
吉田 康彦
大阪経済法科大学客員教授
「人工衛星」打ち上げに対する国連安保理議長声明に反発して6者協議から離脱を表明、核施設の再稼働とプルトニウム再処理を再開、IAEA(国際原子力機関)の監視員追放、さらに核実験とミサイル発射実験の予告・・・・と、このところ北朝鮮は矢継ぎ早に強硬措置を打ち出しているが、額面通りに受け取って騒ぎ立てるべきではない。
すべてオバマ米政権に対する切なるラヴコールなのだ。5月8日、北朝鮮外務省代弁人(スポークスマン)は、「オバマ政権発足後100日間の動向を見守ってきたが、北朝鮮敵視政策に何ら変化がないことが明らかになった」と述べているが、オバマ政権は、今のところ事態を静観しているだけで、あらたな「敵視政策」を打ち出しているわけではない。オバマ政権は、安保理討議では、強硬な制裁決議案採択に固執する日本をなだめ、拘束力のない議長声明採択で事態を収拾する上で中心的役割を果たした。北朝鮮の資産凍結でも、14企業(団体)を主張した日本に対し、3企業(団体)の制裁に応じただけだ。
北朝鮮が強硬策を打ち出している背景には、金正日総書記の健康と後継者問題が絡んでいることは事実だ。金正日の体力が低下し、指導力に陰りが出てきたからには、外部の“脅威”に対して強固な結束を示し、権力基盤の再強化を図る必要があるわけだ。その意味では、一連の強硬策は“こけおどし”に過ぎない。かといって、放置するのは危険だ。連鎖反応としての新たな核拡散と地域の緊張激化につながりかねないからだ。オバマ政権としては早期に米朝協議を開催し、交渉のテーブルに就くべきだ。
われわれが留意すべきことは、北朝鮮の狙いと国家目標がどこにあるかを見極めることだ。北朝鮮の目的は、核保有国としての特権を振りかざし、北東アジアに覇を唱え、韓国を武力で統一したり、日本を攻撃することにあるわけではない。日韓の背後には米国が控えており、「3日間だけソウルを火の海にする」ことができても、ピョンヤンも火の海になることは百も承知である。日本にノドン・ミサイルを1発でも打ち込めば、「朝鮮民主主義人民共和国はこの地上から消えてなくなる」とは、私が訪朝するたびに、北朝鮮政府幹部が私に繰り返している言葉だ。
北朝鮮の狙いと国家目標は、体制存続の保証を米国から勝ち取ることにある。これは過去半世紀、とくに冷戦終結後の過去20年間一貫している。それは、終結後半世紀以上いまだに“休戦状態”にある朝鮮戦争の最終決着としての米朝平和条約締結、その結果としての米朝国交正常化である。できれば、(ついでに)日朝国交正常化である。これらを2012年の「強盛大国の大門が開く年」までに実現したいというのが、体制存亡をかけて金正日が託している悲願なのだ。
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