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2009-07-09 00:00
「核なき世界」と「拡大抑止」とは両立する
堂之脇 光朗
日本紛争予防センター理事長
オバマ大統領は4月5日のプラハでの演説で「アメリカは『核兵器のない世界』に向けての具体的措置として、先ず核兵器の役割を縮小させるが、(他国の)核兵器が存在するかぎり、抑止力としての核兵器は保有し続け、同盟国の防衛を保障する」と述べた。前段は核軍縮への決意表明であり、後段はいわゆる「核の傘」の再確認である。前段の核軍縮についてみると、核兵器の役割を縮小させる努力はブッシュ前政権時代にも2002年のモスコー条約などにより核兵器を大幅に削減する方向で進められてきたし、核兵器への依存度を減らす努力も2001年の核政策の「新しい三本柱」の中で非核攻撃力にも言及するなどして着実に推進されてきた。
オバマ政権になってからは、プラハ演説でCTBT批准に向けての決意が表明され、7月6日には米露間で新たな核軍縮条約「新START(戦略兵器削減条約)」の枠組みが合意されるなど、取組みが一段と本格化している。後段の「核の傘」については、5月25日の北朝鮮の2度目の地下核実験を受けて行われた電話会談で、オバマ大統領は麻生総理に「核の傘を含む拡大抑止」のコミットメントを改めて確認した。冷戦時代から核兵器の唯一の使い道は、核兵器などによる先制攻撃を目論む相手国に対して核兵器の圧倒的破壊力による報復が避け難いことを悟らせて攻撃を思い止まらせる抑止力としての使い道であるとされてきたが、その「核の傘」である。このように、核兵器は実際に使われる兵器というよりは心理的、防衛的な性格が強い兵器である。効果を発揮するには、相手側が自分自身や国民、国土の安全につき合理的な判断ができることが前提となる。
守るべき国土や領域もなく、身を隠して、自爆テロも辞さないテロリストのような敵が相手であれば、抑止論は通用しない。独裁国家とかテロ支援国家などはその中間に位置するのであろうが、合理的な判断力があり「核の傘」の抑止力が有効な相手に対しては、これを堅持するというのがオバマ政権の政策である。「核の傘を含む拡大抑止」との表現が意味するものは、核兵器以外の通常兵器も含めたアメリカの圧倒的な軍事力による抑止に他ならない。通常兵器の方が実際に使える兵器という意味で抑止に役立つ場面もあるであろう。そして、アメリカは同盟国に対しては潜在的な敵からの脅威に対する「拡大抑止」を約束しているのであるから、わが国はこれに応えてアメリカとの間の緊密な同盟関係の維持、強化につとめるべきであろう。
他方、抑止論の枠外の存在であるテロリストに対しては、犯罪者として逮捕、処罰するなどしてその無力化をはかると同時に、彼らが核兵器を入手できないようにする必要があろう。以上のように「核兵器のない世界」に向けての努力と「拡大抑止」の有用性は相矛盾するものではなく、両立するものである。核を減らしながら拡大抑止を堅持することは可能だからである。ところが、以上に述べた状況についての十分な認識がないまま、核兵器を実際に使える最強の兵器であると思い込み、アメリカに「核の傘」の保障を求め、それが保障されない場合には核武装に向かうべきだとする極論も散見されるようであるが、これは認識不足からする短絡的な発想という他はないであろう。
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