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2009-09-01 00:00
「政権交代」選挙の意義
伊藤 馨
会社員
アメリカ式の選挙であれば個々の政治家の人格・資質を問い、イギリス式であれば政策を吟味して一票を投じるところであるが、日本においてはそのどちらでもないらしい。前回は「郵政民営化」、今回は「政権交代」と主題を提示し、イエスかノーの2択である。これは有権者にとっては分かりやすく、賛否の意思決定を容易にさせるが、では、主題を「政権交代」と銘打った今回の衆議院選挙の本質的意義とは何だったのか。それは第一に「政権交代」という政治状況が成立したこと、そしてなにより「政権交代」の蓋然性がもたらす政治に対する緊張感こそが、今回の選挙の本質的な意義であるだろう。民主党が大勝したことは、あくまでも副次的結果である。
「政権交代」という政治状況は一度限りのものではなく、恒常的なものでなくてはならない。このような視座に立つと、そのための必要条件として次の2点があげられる。ひとつは、自民党がこの解党的危機から立ち直り、まずは健全な野党として出直せるかどうか。もうひとつは――こちらがより重要なことだが――、民主党が自らの政権担当能力を国民に示すことである。もしここで、民主党が政権担当能力不足であるとなると、自民党以外の選択肢はなくなり、「政権交代」のもたらす緊張感は消滅する。つまり、個々の政策や実績を云々せず、外交・安保問題等の国家の根幹にかかわる問題に目を背けてまでこだわった今回の「政権交代」選挙がほとんど意味をなさなくなるのだ。したがって、「政権交代」のもつ政治への緊張感を歓迎する観点からいえば、民主党の政権担当能力が一定程度の水準を超えることを強く願う。自公政権との違いを強調し、逆ベクトルに進むことのみを目的とした野党時代の態度は切に改めて頂きたい。
しかし、民主党の外交・安全保障政策は、ナイーブでアイデアリスティックな面があるために甚だ不安である。実際、鳩山代表は米国主導のグローバリゼーションや日米同盟には否定的である一方、“友愛”というあいまいな概念に基づいた東アジア共同体構想などをニューヨーク・タイムズ紙に開陳されておられる。拙速な脱米入亜は賛成できるものではない。外交や安全保障が政局次第で大きく針が振れるべきものでないのは国際政治の常識である。外交においてはその継続性こそが信頼と安定に不可欠であることは鳩山代表もご存じのはずだ。現在の対欧米アジア政策は、多くの問題があれどもそこには先人が少しずつ積み重ねてきたリアリズムの英知があることもまた看過すべきではない。
一方、内政においては、歳出入の健全化、行政・社会保障・医療・年金制度改革、雇用・少子化対策など、賞味期限を過ぎていたり、時代にフィットしていなかったりするシステムを新たに構築すべき時期を迎えている。しがらみだらけといわれる自民党政権で変革できなかった諸問題の解決を、民主党に求めたい。民主党が日教組や自治労などなかなかのしがらみを抱えた政党であることは周知の事実ではあるが、それらの支持団体に縛られてしまうのであれば、自民党政権の悪しき部分と大差はない。国民が民主党に望んでいるのは、上述通り、硬直化した社会システムの乱麻を断つことである。政権与党として必要であれば、野党時代に作成した政権公約にこだわらず、情報を開示し、消費税の引き上げなど現実の情勢に沿った政策を躊躇うことなく進めてほしい。「政権交代」の緊張感を今後も維持するためには、最大野党の政権担当能力の有無が大きな成立要件となる。今回の衆議院総選挙を夏の終わりの「政権交代」狂騒曲にしてしまわないためにも、民主党の手腕を注視していきたい。
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