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2009-12-07 00:00
「普天間」は日米同盟の時限爆弾
鍋嶋 敬三
評論家
日米同盟は危険水域に入った。沖縄の海兵隊普天間飛行場の移設問題で、鳩山由起夫首相は年内決着を断念する方針という。しかも移転先としてグアム島の可能性も言及した。これに対してウィラード米太平洋軍司令官は北東アジアから米軍が撤退する意思は全くないことを言明した。鳩山首相が年内決着を先送りした背景に、「日米が合意した辺野古移設を進めるなら、連立政権から離脱する」という社民党の圧力がある。福島瑞穂党首の強烈な揺さぶりに、首相はあっけなく腰砕けしてしまった。さらに問題なのは首相がグアムへの海兵隊基地の移転に言及したことである。「ヤンキー・ゴー・ホーム」である。
1950年1月、アチソン米国務長官が西太平洋における米国の防衛線をアリューシャン列島=日本列島・沖縄=フィリピンに後退させ、韓国と台湾を外すという重大演説をした。これを見た北朝鮮が「好機到来」とばかり5ヶ月後、38度線を越えて韓国に侵入、アチソン演説が朝鮮戦争の引き金にもなった。鳩山首相は自らの発言が重大な意味を持っていることを理解していないようだ。
首相は社民党の主張を「重く受け止める」と、はれ物に触るような態度を取る一方、「日米合意も重く受け止める」「辺野古も生きている」と支離滅裂の発言を繰り返している。八方美人のなせる技か、あっちへふらふら、こっちへふらふらである。国家の基本である安全保障政策で少数党の社民党や国民新党に拒否権を握られているだけでなく、党首として民主党内の意思統一もできていない。党内で実権を握る小沢一郎幹事長の顔色をうかがうばかりで、総理大臣としての指導力を発揮できないからだ。日米同盟によって日本の安全と繁栄を守るという国民全体のための大きな国益よりも、連立政権維持に汲々(きゅうきゅう)として身内の「政権益」を優先させた結果、せっかくまとまっていた日米合意をないがしろにすることになった。鳩山氏には基本的な同盟戦略がないから、流れに任せて漂流するばかりである。国家指導者としての資質に欠けると言わざるを得ない。
11月の日米首脳会談では来年の日米安保条約締結50周年に向けて、同盟深化のため新たに協議を始めることで一致した。首相は「普天間問題の早期解決を目指す」と大見得を切った。これを受けオバマ大統領も「迅速に完了」への期待を表明していた。首相は大統領に対し \"Trust me\" と胸をたたいた。trust には「信頼する」「信用する」「あてにする」「安心して委ねる」などの意味がある。僅か1ヶ月でそれが空手形になってしまうのだ。責任ある立場にある人は、言葉が持つ意味を十分認識している。特に政治家にとっては、それが最も大事な資質ではないのか。
オバマ政権はいら立ちを通り越して、怒り心頭に発していることだろう。普天間問題は政治、経済、軍事、文化も含めたトータルな日米同盟関係の時限爆弾だ。「時間切れ」に向かって刻一刻と時限装置の針は進む。鳩山外交の行く末は同盟の「空洞化」であり、日米安保体制の下、核を含む拡大抑止によって守られてきた日本の安全が保証されない危険水域である。鳩山首相が今すぐなすべきことは、連立維持にとらわれず、国民全体の利益のために、日米合意に基づいてできる限り早く「同盟深化」のための明確な決断を下すことである。
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