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2009-12-18 00:00
信無くんば立たず
角田 勝彦
団体役員
12月16日付け『読売新聞』の「編集手帳」には驚いた。昔、ある遊女のもとに七兵衛、七郎右衛門という二人の男が通い詰めたのに対し、遊女は「七さま命」と彫った腕の入れ墨を見せて、両人をたぶらかしたという話を枕において、鳩山首相の腕に「O(オー)さま命」と彫ってあるかどうかは知らないが、「普天間」の結論を先送りして、移設先を選定し直すことを決めたのは、沖縄の人々にも気を持たせ、米国(オバマ)にも気を持たせる手練手管で、とりあえずの時間稼ぎと映ってもしょうがないと断じている。大幹事長に振り回されている首相だから、稼いだ時間で大局を見据えた決断ができるか、心もとないし、一番大事な「Oさま」は、実はその人かも知れないとのオチまで付けている。遊女扱いするのだから、「Trust me」は「(女郎の)千枚起請」だと言っていることになろう。就任90日でハネムーンは口汚い喧嘩になっている。
たびたび引用するが、古代ギリシャの哲人プラトンは「ポリティア(国家)」で、賢人(理知)が支配する「哲人君主ないし貴族政治」を最善のものとし、戦士団(気概)が支配するスパルタ型体制を次に置きつつ、物質的・肉体的欲望に関心を持つ集団(ホモ・エコノミクスと言えよう)が支配する、寡頭制(金持ち崇拝)、民主制と僣主制の危険を説いている。とくに極端な自由は極端な隷従へ振れるのが政治や社会のダイナミズムであるとして、大衆の手に移された政治「衆愚政治」は、最悪の欲望の持ち主による卓越した人間の排除と戦争に捌け口を見いだす独裁体制「僭主政治」に転落する危険があると説くのである。
哲人君主はさておき、迷走する鳩山政権に、「平成維新」の気概を見る者は少ないだろう。鳩山首相の母上は、12月15日東京地検特捜部に提出した上申書で、「親として子を助けるのは当然」と由紀夫首相と弟の邦夫・元総務相へ7、8年前から月額1500万円ずつの援助を始めた理由を説明しているという。首相への提供資金は11億円を超える由である。有り難い親心であるが、姉上にも提供されていたとの話もあり、相続税対策を兼ねた生前贈与(しかも贈与税の支払いなし)と見られてもしょうがない。ぷんぷん金権寡頭制の臭いがする。さらに、14日の記者会見で、小沢幹事長が、天皇陛下と習近平・中国国家副主席との会見問題で、それに抵抗した羽毛田宮内庁長官を厳しく批判した態度は、「僭主政治」への移行の危険性すら感じさせるものだった。
鳩山・小沢外交の根底にあるのは、マキャヴェリズム的な現実主義ではあるまい。たとえば、「現在アジアでの戦争勃発の危険は少ない」「米国は対中関係からも普天間の結論が少し遅れたくらいでは日本との同盟を捨てられない」「参議院選挙までは連立維持が大事である」「沖縄県民に対しても、今すぐに結論を出せば必ず壊れるから、数ヶ月辺野古以外で移設先を探る努力してみたが、けっきょく駄目だったという方が説得しやすい」、また「中国との関係緊密化によって得るものの方が、米国との関係是正によって失うものより大きい」などと、腹を据えて臨んでいるとも思えない。「友愛」を含む全てが隠れ蓑でもあるまい。孔子は、政治において、国防(軍備)よりも、経済(食料)よりも、民の信頼の方が重要だと諭した。マキャヴェリすら、君主が「見るからに慈悲深く、信義を守り、人間的で、誠実で、信心深く、しかも実際にそうであることは、有益である」と記している。鳩山首相は、内外の信を取り戻すべく、最大の努力を行うべきである。
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