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2010-01-29 00:00
米国、アジアで主導権目指す
鍋嶋 敬三
評論家
米国のオバマ政権がアジア太平洋外交の再構築をはっきり打ち出してきた。ブッシュ前政権時代の単独行動主義(ユニラテラリズム)に決別、多国間枠組みを重視して国益を実現するため、「米国の戦略的関与と指導的役割の強化と深化を目指す」(キャンベル国務次官補の上院外交委員会証言)ことを明確に示した。オバマ大統領が昨年11月、東京での演説で「アジア回帰」を宣言、東アジア・サミット(EAS)への正式参加に名乗りを上げ、クリントン国務長官は1月12日ハワイでの外交演説で以下の5原則を挙げた。(1)同盟関係が地域関与の要石、(2)地域協力の強化、(3)効果的で結果重視の枠組み、(4)6カ国協議、日米中、日米印3カ国など柔軟性に富んだ多国間協力、(5)枠組み作りに米国を含む主要国の参加。クリントン長官は「米国はアジアに戻ってきた」と述べたうえで、「(アジアに)とどまる」と並々ならぬ決意を示した。
米国のアジア回帰で自由貿易協定(FTA)を軸にアジアへの影響力を強めてきた中国を含め大国の主導権争いが活発になるだろう。資源獲得がからんだ紛争も地域の不安定要因になる。日本にとっては多国間枠組みの基礎となる米国との同盟関係の重要性がさらに高まる。基地問題を含め同盟管理が極めて重要な転換点に立たされているという認識を、新たにしなければならない。米国は2011年に主催するアジア太平洋経済協力機構(APEC)首脳会議を地域への関与を示すまたとない機会ととらえている。経済統合を推進することが米国の国益にかなうからだ。
アジアでの多国間枠組みの中心は東南アジア諸国連合(ASEAN)である。米国はASEANと友好協力条約(TAC)や貿易・投資枠組み協定を締結、初の首脳会議も開いた。安全保障をテーマに北朝鮮も参加するASEAN地域フォーラム(ARF)の強化も目指す。鳩山由紀夫首相は東アジア共同体構想を提唱しているが、その枠組みを定かにしていない。これに対して米国ははっきり東アジア・サミットへの参加を打ち出し、米国抜きの枠組みを明確に否定した。米国は「地域の多国間組織(複数)の形成に参加するため関係国と協議するつもりである」(キャンベル氏)と強い意欲を見せている。
日米関係は海兵隊の普天間飛行場移設問題でぎくしゃくしているが、日米安全保障条約改定50周年の年を迎え1月12日のハワイでの日米外相会談で「日米同盟の深化」のための協議を事実上スタートさせた。オバマ政権は普天間問題をとりあえず脇に置いて、基本的には日本との同盟関係が米国のアジアへの戦略的関与の要石であり、多国間枠組みにおける日本の役割を評価する立場をとっている。キャンベル氏はアフガニスタンへの50億ドルの支援策、気候変動問題、海賊対策、メコン川流域開発などを日本の貢献の例として挙げた。そのことを念頭に同氏は「日本の世界における指導的役割を実現するようなより永続的で前向きの同盟のビジョン」を作る作業をしていると指摘した。日本としては日米間の同盟深化の協議に当たって、アジア太平洋だけでなく日本の原油輸入の大半を依存して死活的な国益がかかる中東まで視野を広げた外交のグランドデザインが欠かせない。
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