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2010-02-23 00:00
陸自連隊長の「同盟」発言処分は不当
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
陸自第6師団の中沢剛連隊長(1等陸佐)が、宮城県の陸上自衛隊王城寺原演習場で2月10日に開かれた米陸軍との共同訓練の開始式で、鳩山首相の「トラスト・ミー」発言を批判したとして、注意処分を受けた。報道によれば、中沢連隊長は「同盟というものは、外交や政治的な美辞麗句で維持されるものではなく、ましてや『信頼してくれ』などという言葉だけで維持されるものではない」と訓示したとのことである。しかし、これは全く処分される筋合いのものではなく、実に簡潔にして要を得た同盟の本質論である。同盟とは、利害関係の共有を基盤として、契約(日米同盟で言えば日米安保条約)、信頼関係、同盟を維持しようとする相互の信念、その信念を具現化する行動の繰り返し、同盟を維持するための軍事的能力の確保、によって重層的に維持されるものである。
したがって、中沢連隊長の発言は、まさに正鵠を射ているとしか言いようがないのである。しかも、鳩山政権発足以来の「反米的」政策や発言の連続により日米関係が悪化しているこの時期に、米軍との共同訓練の開始式で「口だけではなく、行動でもって、同盟を強化していこうではないか」という意味に当たる発言をしたことは、時宜にもかなっている。ところが、この発言の揚げ足をとるような形で、北沢防衛相は、12日の記者会見で、この発言に対して「現場の指揮官が政治や外交という高度な国家意思に言及している部分もある」と述べ、中沢連隊長に何らかの処分を下すことを表明し、驚かされるような素早さで実行されてしまった。中沢連隊長の発言は、褒められるに値しこそすれ、処分されるなど到底理解に苦しむ。仮に中沢連隊長が日米同盟のあり方について重大な変更を迫るような発言をしたというのであれば、確かに問題だが、そうではないことは明白である。
中沢連隊長は、鳩山首相批判の意図を否定している。これ対して、北沢防衛相は、「意図がなくても、国家意思にかかわることを、指揮官として公式にいうことに対する規律の問題など、シビリアン・コントロールの観点から、きちっと整理する必要がある」と、シビリアン・コントロールを持ち出して来た。しかし、中沢連隊長の発言は、シビリアン・コントロールとは何の関係のないことである。同盟に関してのごく常識的な一般論を訓示しただけの話ではないか。北沢防衛大臣の発言は、シビリアン・コントロールを全く理解していないとしか言いようがない。シビリアン・コントロールの要諦は、民主的に選出された首相なり大統領が、軍事に関する最終決定を下し、最終責任を負うということである。したがって、そもそも「鳩山首相の発言を引き合いに出したわけではない」などという弁解すら、全く不要のことであって、本来は、堂々と批判して全く構わないのである。
米軍の幹部などは、政権に対してずけずけと物を言っている。それを採用するか否かは国防長官なり大統領が決めることであり、あまりに政権の方針と異なることばかり言えば、更迭される。シビリアン・コントロールとはそういうものである。シビリアン・コントロールを曲解して処分を下せば、悪しき前例を残すことになる。「軍人」としての本分を全く逸脱していない正論を唱えた自衛官に対する言論封殺は、自衛官の志気を著しく低下させるおそれがある。それは、ひいては我が国の安全にも関わることである。したがって、鳩山政権の対応には強く異を唱える。また、今回の件により、我が国でシビリアン・コントロールについての正確な認識が広まる必要性が、改めて浮き彫りになったと言える。
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