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2010-03-01 00:00
鳩山首相が問われる指導者の資質
鍋嶋 敬三
評論家
鳩山由紀夫首相が就任して3月で半年を迎える。首相自身と民主党を支配する小沢一郎幹事長の「政治とカネ」の問題、国会での政権公約違反の追及、普天間基地移設問題の迷走などで、内閣支持率は急落、各種世論調査で不支持が支持を上回り、民主党支持層の政権離れも顕著になっている。短期間での凋落ぶりの最大の要因は、「首相に指導力なし」である。国家の根幹にかかわる外交・安全保障政策の混乱は、国益の観点から憂慮に堪えない。就任早々、温室効果ガスの1990年比25%削減を宣言したが、経済や国民生活への影響など国内対策も示さず、国内外に不信感を生み出した。首相が提唱した東アジア共同体構想は、その中国傾斜姿勢や「駐留なき日米安保」論と相まって、同盟国米国から真意に疑念を持たれている。
1月にはインド洋の給油活動から自衛隊を撤収させ、テロ対策で国際社会の重要な一員としての責任を果たすという意思が希薄なことを内外に示した。普天間問題の迷走は、日米同盟堅持による抑止力保持の観点を欠いたところから生まれている。この問題で鳩山内閣が半年間やってきたことは、(1)首相自身を含め閣僚の足並みが乱れ、(2)政権としての方向性が定まらず、(3)米国の対日不信が増幅したという流れである。首相は「日米合意、衆院選で訴えたこと、そして沖縄の心を一番尊重しなければならない」と述べた(2009年10月)。しかし、県外・国外移設を強硬に主張する連立与党の社民党に振り回され、「八方美人の八方ふさがり」に自らを追い込んでしまった。
日米安全保障条約改定50周年の首相談話(1月19日)で「日米同盟を21世紀にふさわしい形で深化させる」と決意を述べたものの、そのため日本が何をするかの方向性も示さない。首相は5月末と期限を自ら切った普天間問題の解決策について、「ゼロベースで検討」と言いながら、岡田克也外相が日米合意案の可能性を指摘すると、これを否定するなど、同盟深化の信念があるのか、甚だ疑わしいものがある。政治指導者に求められる資質とは何か。ドイツの社会学者マックス・ウェーバーは『職業としての政治』の中で、政治家にとって重要な資質として情熱、責任感、判断力を挙げた。「情熱は、仕事への奉仕として、責任性に結び付き、その責任性が行為の決定的な規準となった時に、初めて政治家を作り出す。そのためには、政治家の決定的な心理的資質である判断力が必要である」と。事物と人間に対して「距離を失ってしまう」ことが、政治家として失格であることも指摘した。
首相がしばしば口にする「沖縄の思い」と連立与党のくびき、米国の厳しい視線の中で、自らの軸足がどこにあるのかさっぱり見えてこない。「情熱」はあっても理念先行で空回りしている。「判断力」を鈍らせているのは、「普天間」では米国、カネの問題では世論に対する「甘え」である。その背景にあるのは、総選挙での圧勝という「おごり」、そこからくる国民全体と国家に対する「責任感」の欠如であろう。まさに指導者としての資質が厳しく問われているのである。世論はそのことを見抜いているのだ。
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