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2010-03-26 00:00
鳩山首相は包括的な安全保障観を国民に示すべき
鍋嶋 敬三
評論家
鳩山由紀夫政権下での米軍普天間飛行場移設問題の迷走は、日米安全保障体制がアジア太平洋地域の安定のための公共財であるという認識を欠いたところから発している。鳩山首相は沖縄の県民感情にとらわれすぎて、自縄自縛に陥ってしまった。自衛隊と並んで在日米軍の存在が、(1)日本の安全確保のために、そして(2)アジア太平洋地域の安定維持のために、さらに(3)核拡散防止、テロ抑止など世界規模の課題のために、不可欠であるという視点を無視したアプローチを取ってきたからである。
日米間の13年間にわたる難交渉の末、沖縄海兵隊のグアム移転協定(2009年2月署名)で決着した米軍再編計画の中核である普天間基地の返還と代替施設の建設、海兵隊8000人のグアムへの移転を振り出しに戻すことが「沖縄県民の思い」(鳩山首相)にかなうことになるのか。昨年末、「新たな移転先」の結論を先送りし、3月中に政府としての案を固め、沖縄県民と米国という利害が相反する当事者の理解を得て、5月中に解決が可能だと鳩山首相が本気で信じているとすれば、あの13年間の交渉の難しさをあえて無視しているとしか思えない。県内移設の報道に沖縄県民の反発は激しくなる一方で、「県外移設」を自らあおってきた、首相の責任は重大である。
在日米軍基地の4分の3が沖縄に集中し、人口密集地の真ん中にある普天間基地の危険を除去するための移設の必要性は言うまでもない。米軍による事件、事故が日米安保体制を揺るがすおそれが強まったからこそ、強硬な海兵隊を説き伏せて普天間の返還と辺野古への移転を飲ませたのが、過去の日米交渉であった。米政府が現在も「日米合意の実施が最善」と主張しているゆえんである。交渉の仕切り直しの時間やエネルギーの余裕がないからだけではない。日米合意が21世紀のアジア太平洋地域における日米の共通戦略(2005年)に裏打ちされているからだ。その背景には、日本への脅威の度を強めている北朝鮮の核、ミサイル開発、中国の軍事力の急速な増強とその意図の不明瞭さ、海洋資源と制海権を巡るせめぎ合い、テロや大量破壊兵器の拡散など多様な脅威や事態が国際的な安全保障環境を脅かしているとの共通認識がある。
最近、米下院の日本をよく知る有力議員から「在日米軍は日本防衛に必要か?」という懐疑論が出てきたことは注目すべきである。1990年代当初、フィリピンの要求で米国は巨大な海軍、空軍基地から撤退を余儀なくされたが、その結果は領土、領海紛争を抱える南シナ海での中国の影響力の拡大と地域の不安定化だった。普天間を巡る鳩山政権の混乱の原因は、アジア太平洋での安全保障戦略という視点が抜け落ちていることにある。昨年末に策定されるべき新防衛計画大綱が手付かずのままであることがそれを物語っている。鳩山首相は包括的な安全保障観を国民に示すべき時である。
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