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2010-03-31 00:00
フランスの炭素税導入延期決定から学ぶこと
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
フランスのサルコジ政権が、3月23日に、温室効果ガス削減の切り札と位置付けていた炭素税の導入を当面棚上げする方針を示した。サルコジ政権が導入を目指していた炭素税については、その原案に対して、憲法会議が昨年12月に「産業界に配慮しすぎており、租税の公平さを欠き違憲である」との判断を示していた。
具体的には「(1)石油精製など約1000の事業所のほか、電力業界、航空・運輸産業などが課税を免除・軽減される。(2)このためフランス工業界が排出するCO2の実に93%が課税されない可能性がある。(3)したがって、新税は不公平で、地球温暖化対策にもならず、違憲である」という判断である。また、フランスでは、「課税対象の差別化は、税の前の平等の精神に反する」という考え方が浸透しており、世論調査の結果では、国民の3分の2が否定的であった。そこで、サルコジ政権は、原案を修正して、改正案を提示する予定であった。
しかし、21日の州議選で与党が大敗したことを受け、炭素税の導入自体を棚上げすることになった。フィヨン首相は、与党・民衆運動連合(UMP)の下院議員らとの会合で、炭素税導入棚上げの理由を「経済成長、雇用、競争力、財政赤字の削減を優先するため」と説明している。また、フィヨン首相は、フランス単独ではなく、欧州連合(EU)の加盟国と協調した形での炭素税の制度設計を目指す考えを示した。
フランスにおける「炭素税騒動」は、環境税の手法を用いた温室効果ガス削減への取り組みの難しさを端的に教えてくれる。炭素税は、産業に配慮しなければ国内産業の空洞化を招くが、一方で、産業に配慮しすぎれば「税の前の平等」の原則に反することになる。サルコジ政権は炭素税導入を延期することによって、その相反する二つの問題から一挙に逃れることを企図したのだと言えるであろう。要するに、炭素税を温室効果ガス削減、あるいは低炭素社会作りのための目玉と位置付けるのには無理があるということである。
我が国では、鳩山政権が2020年に二酸化炭素の排出量を1990年比で25%削減するという中期目標を立てており、そのための手段として炭素税の導入を積極的に検討しているが、国民世論は否定的である。ただ、日本の場合は、フランスとは反対する理由のニュアンスがやや異なり、そもそも炭素税を負担すること自体への拒否感がある。低炭素社会作りは、エネルギー安全保障上不可欠なことであるから国民はある程度の負担をする必要があるが、世界一のエネルギー効率を達成している日本では、実効性ある炭素税率はおそろしく高くなることが予想される。逆にいえば、少々の炭素税を導入したところで、実効性はないといえる。したがって、炭素税への国民世論の拒否反応は、あながちエゴだとも言い切れない。そもそも、炭素税の租税としての本質論に踏み込まれていなければならないのだが、残念ながら全くそうはなっていない。すなわち、何らかの財源と位置付けるのか、中立化するのか、ということで議論が徹底される必要がある。前者であれば、温室効果ガス削減に関するR&Dや投資の財源にするというのが妥当な考え方であろうし、後者であれば、減税や社会保障費に充てることになろう。このような根本的な議論が深まっていない状況で炭素税を導入することは、無謀であり、百害あって一利なしである。
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