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2010-06-02 00:00
日本の威信低下を招いた鳩山政権
鍋嶋 敬三
評論家
鳩山由紀夫首相が6月2日、突然辞意を表明した。普天間飛行場の移設問題で社民党の連立離脱、政治とカネの問題で国民の信頼を完全に失い政権運営が行き詰まったためだ。政権交代後僅か8ヶ月余で政権を投げ出さざるを得なくなった。自民党の「政権たらい回し」を厳しく批判してきた民主党は「首のすげ替え」で7月の参院選挙を乗り切ろうとしているが、衆院解散・総選挙で改めて政権選択について国民の信を問うのが筋だ。鳩山首相の最大の「罪」は日本外交の基軸である日米同盟の信頼関係を根底から揺るがしたことである。国家の存立に最も基本的な安全保障・防衛政策での違いに目をつぶって、数合わせのため社民党と連立を組んだことが誤りであった。
日米関係が揺らげば、朝鮮半島、台湾海峡など不安定な東アジアの安保環境をさらに不安定にするのは当然であり、韓国、中国、東南アジアなどアジア全域に懸念が広がる結果を招いた。鳩山首相が提唱した東アジア共同体構想は「米国外し」の疑念を米国に植え付けた。首相自身が出席した日中韓首脳会談、中国の温家宝首相の訪日直後の辞意表明によって、アジアにおける日本の影響力低下は免れない。外務省調査によると、米国の有識者は米国の最重要パートナーは「中国」と見ている。25年ぶりに「日本」を上回った。興隆著しい中国の存在感がますます大きくなる一方、政治が混迷する日本は重きを置かれていないことがはっきりした。日米間の信頼関係の揺らぎが根底にある。
東アジアの地域情勢は厳しい。北朝鮮の魚雷攻撃による韓国哨戒艦沈没事件は朝鮮半島に一触即発の危険な情勢を招いた。国連安全保障理事会を舞台に外交戦がし烈である。非常任理事国として日本もかかわっているが、首相辞任という政局の混迷で影響力を発揮できるか懸念される。東シナ海では中国海軍の示威行動がしばしば繰り返されている。日米関係の不安定化を見透かして中国が牽制に出ているのは明らかだ。鳩山首相は日米関係を「対等に」と言いながら、日本の防衛力強化に主体的に取り組んだことはなかった。辞意表明演説でも「日本の平和を日本人自身で作り上げていく」ことを目指しているとの思いを述べたが、それならば長期的な安保・防衛戦略、日米同盟のあり方についてのグランド・デザインを国民に提示すべきであった。
鳩山氏は自身が「宇宙人」と呼ばれていることについて「10年、20年先のこと申し上げているので」と、国民から理解されないことを嘆いた。いくら理想を述べ立てても、政治は現実の矛盾をどのように解決していくかの技である。常々、国民の理解を求める真剣な努力が欠かせないのだ。理念先行、約束を軽々と反古にして恥じない鳩山氏は、国家の最高指導者としての資質を欠いていた。辞任はその付けが回ってきたにすぎない。
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