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2010-06-10 00:00
金融機関と一般事業会社の違いを認識せよ
宮崎 厚
ベンチャー企業顧問
波乱含みの欧米金融市場のあり方が、最近の世界外交のテーマの一つになっているようですが、かねて金融市場のあり方について疑問を感じておりましたので、そのことを指摘したいと思います。「銀行や証券会社が資本を増強すればするほど、利益を上げればあげるほど、経済は安定して景気がよくなる」とする考え方は、どこかがおかしいと思います。その一つは、資金調達の場であるはずの株式市場について、「増資をする会社は、株式を希薄化させるので、株主のことを考えない会社だ」とか、「株主のためには、むしろ自社株買いをすべきだ」とか、「株式市場に上場した会社は、株主のものである」といった発想です。
つまり、未上場の会社が、個別に頼んで資本を出してくれた株主の事を考慮するのは当然としても、上場会社は、大切なのは情報公開だけで、あえて個々の株主のことは一切考える必要は無いはずです。いかにして事業そのものを拡大発展させるかに、まい進すべきです。社会的に如何に自社が役立つ存在になるかを第一に考えて、付加価値の創造にまい進すべきであります。一方、市場での株式の売買自由を得た投資家は、個々の会社を自ら評価して、自由に株式を売買すればよいのです。株主の利益を考えないような気に入らない上場会社には、文句をつけたりせずに株を持たなければ良いのです。かつて、重厚長大を否定された時、「豆腐で丸ビルは作れない」と言ったある大企業の賢明な経営者は、当時、外資系投資会社の株主から株主のことを考えない経営と非難された時、「売りたければ売れ、青い目のための経営はしていない。日本列島と共に歩むための経営だ」と痛烈に反論したそうです。上場会社の株を持つか持たないかは株主の自己責任であり、自己判断のはずです。そんな当たり前のことが忘れられているため、株が下がって裁判に訴えるような人が出てきたり、株式の新規上場市場は壊れてしまい、新しい産業が育ちにくくなっています。世界中で証券業界が実業界をミスリードしたのです。
昔、コロンブスの為に資本を出して、船を作らせたスペインのビクトリア女王が、「この船は自分のもの」というのなら分かります。東インド会社は、きっと英国エリザベス女王の所有物だったかもしれません。しかし、現在の資本主義下の株式会社制度は、社会の仕組みそのものであり、いつまでも「会社は株主のもの」などと言う論理は通用しません。会社は、社会が必要とする付加価値を作れる限り、拡大し、役目が終わればつぶれてゆくべきものです。産業のライフサイクルも、一般に30年といわれています。世の中の変化に耐えられない会社は、つぶれてしかるべきで、世の中の産業の新陳代謝を進める上で、会社は自然人と違い、生活保護を受けるべきではありません。そのために会社は、「自然人」から区別されて、「法人」というのだと思います。
次に、金融機関は、利潤の最大化を求める一般事業会社とは異なり、自ら付加価値を生みません。金融の投機利益は、ゼロ・サム・ゲームです。リーマン・ショックに始まり現在のユーロ危機にいたる危機は、全て投機であって、儲けた者がいた代わりに、各国政府が逆にその裏側で損失を負担させられているに過ぎません。今後暫くは財政再建のため、世界的に増税が始まるのでしょう。資本が産業に回らず、付加価値を生まない金融機関にばかり回ってどうなるのか。最も付加価値を生まない政府が、重税によって民間資金を吸い上げ、需要を抑制して、世界経済の持続的成長が果たせるのか疑問です。金融機関は、その行動指針を、薄利安定による経営の継続性確保に置くべきです。利潤極大化を目指すのは、付加価値を生み出す事業会社の経営目標であるべきです。以上の観点が、健全な産業社会、健全な資本市場、税金が安くて豊かな社会を作るため、世界各国の経済危機克服、財政再建策の第一歩であるべきではないでしょうか。これからG7やG20に出席される菅新総理始め財務大臣、外務大臣の意見を聞きたいですね。
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