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2010-06-14 00:00
菅政権に長期・本格政権化の兆し
杉浦正章
政治評論家
小泉純一郎以降の歴代自民党政権の孤城落日と、暗愚を地でいった鳩山政権の体たらくで、日本の政治は一体どうなることかと思っていたが、最近の首相・菅直人を見ると、これは小泉並みの本格政権になるかも知れないと思いだした。少なくともパフォーマーとしての力量は、小泉並みだ。参院選も、全国紙の調査では有利な戦いを展開することが確実であり、世上言われるように9月の民主党代表選挙でだれかと交代させられることなどあり得ない。久しぶりの本格政権であることも間違いない。
他方、自民党はというと、泥酔財務相の面影がいまだにちらつく。歴史的に見ると、自民党は、遺産を使い果たして、総選挙に負けるべくして負けたのだ。「マニフェスト詐欺」との民主党批判はその通りだが、重要国際会議で泥酔状態になる閣僚も一種の国民に対する詐欺行為だ。遺産としての人材もいなくなり、高齢化と2世、3世議員の増大で、「売り家と唐様で」書いてしまったのだ。現在の党執行部を見ても、全く基本は変わっていない。幹事長・谷垣禎一は、野党としての戦い方を全く知らない。いくら敗色が濃くても、トップに立つものが「私もあすがあるとは思っておらず、政治生命を賭けて、戦い抜きたい」と発言してはいけない。全体の意気消沈を増幅させる。与党を過半数割れに追い込めなかった場合は、総裁を辞任する考えを明らかにしたが、本人は背水の陣のつもりだろう。しかし、世間では「嫌気が差したのか」と受け取られる。「明日はない」との前提に立ってしまえば、政権批判は負け犬の遠吠え化してしまうではないか。今日からの代表質問で政治とカネを追及しても、ガス抜き後の二番せんじとなりがちだろう。自民党は若い人材養成から始めなければ再び政権につけまい。
これに比べて世襲の象徴の鳩山が首相を8か月で辞め、小沢一郎が外見上にせよ排除された結果の民主党政権は、何とすっきりリセットされたことか。菅は、16年ぶりの非世襲首相だ。内閣が、若くて2世が1人しかいない政権は、初々しさすら感じるほどだ。率いる菅は、“亀井切り”でしたたかさを見せ、政策の自民党寄りで硬直化した改革路線から柔軟路線への転換を印象付けた。テレビで繰り返される徒手空拳で首相の座についた“立志伝”は、田中角栄のそれに似て、日本人の感情に受け入れられやすい。首相夫人が最近政治に重要な役割を果たすようになったが、津田塾大出身の夫人・伸子も庶民的で好感度が高い。「政治とカネ」の問題は、本人の政治的・道義的責任は残るが、辞任したことで、国民にガス抜き効果をもたらし、野党の追及の勢いは完全にそがれた。焦点の消費税率引き上げと普天間問題への対応は、前向き姿勢を前面に出しつつも、長期戦の構えがはっきりしてきた。消費税では「財政健全検討化会議」を提唱したが、これは超党派による責任分担と問題の長期化を意味している。とりわけ普天間問題は民主党政調会長・玄葉光一郎が、6月13日のNHK番組で述べた流れだ。つまり「沖縄県民とのパイプを作るところから始めなければならない。時間がかかる」である。
参院選挙は、ご祝儀相場の支持率がまだ維持されている1か月後だから、敗北はない。6月14日付の全国紙世論調査での比例区投票先も、朝日は43%で、自民の13%を大きく引き離した。43%は昨年の衆院選前の最高値42%に匹敵する。読売も民主31%、自民16%。この調子では、菅のいう勝敗ライン50議席は上回り、過半数の60議席を単独で越えるかも知れない。越えればもちろん単独政権、60議席に迫れば、連立政権で対応できる。そうなれば、菅の基盤は、衆院308議席とともに極めて強固なものになる。テレビ東京の6月12日土曜の報道番組は、民放にしてはけれんみが少なく、真面目な印象だったが、司会者が「私は小沢さんが代表選に自分で出馬すると思っている」と述べたのには、驚いた。これはないだろう。小沢の選挙区向けの発言にとらわれすぎている。選挙区には、“やる気”を示しておかないと、辞任劇は即「政治家引退」と受け取られかねないのだ。もっともこの司会者は「私は小沢さんと40年の付き合いで、性格を知っているが、絶対に幹事長を辞めない」と今年に入って3回も発言しているから、その程度の判断力なら「出馬」と言ってもおかしくない。菅は、売名立候補の相手はいても、事実上は無競争再選だった。こうして早くも長期政権の条件が整い始めているのだ。
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