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2010-07-13 00:00
菅政権の「正面突破の道」は、これしかない
吉田 重信
元外務省員
今次参議院選挙の結果を一言で評価すれば、選挙民は国会における「ねじれ」という、菅政権にとっては意地悪な選択を行い、茨の道を用意したということのようだ。菅政権は、この選挙で勢力を維持ないし拡張することを目論見んでいたようだが、大きな誤算となった。これまでの自民党政権と同じような、政権の慢心を、国民が感じ取った結果であるように考えられる。しかし、比例代表区で最も票を集めたのは、引き続き民主党であった事実からみれば、国民が民主党を全く見限ったとまでは言えない。また、選挙結果は、一時は気息奄々としていた自民党が復調する機運をもたらすとともに、自民党を見かぎって、党外に生存の道を求めた自民党からの「脱藩者」たちからなる「みんなの党」を躍進させた。
これらの事象と、菅政権が鳩山政権に比べより現実的、保守的になっていることを併せて考えると、日本の政治は、せっかくの政権交代によってもたらされた変革への気運が減少し、かってのような保守的な、あきらめの気分が復活してきたようにも感じる。それでは、日本を覆う閉そく感が続くことになるが、今後どうなるか、は分からない。確かなことは、今後菅政権は、極めて困難な国会運営を迫られるだろうということだ。そこで、もし菅首相が、凡庸な政治家に過ぎず、その政権の延命を汲々として図るだけであるならば、同じように「ねじれ現象」に遭遇した自民党最後の三人の首相と同じように、結局は「野たれ死」にする運命に陥る公算が大きい。さりとて、状況からみて、菅政権が当面達成可能で、点数を稼ぎうる課題は、今や限られていると考えられる。
したがって、菅首相としては、徒に後退を待つよりも、むしろ「正面突破の道」を選ぶしかないように思われる。このあたりに、菅首相の真の政治的技量いかんが問われているようだ。つまり、菅首相は、この際怯むことなく、自ら率先して言いだした消費税増額という政策課題の実現にまい進するほかない。方策としては、同じく消費税増額を唱える自民党の一部やほかの政党と連携することも可能となろう。先の先進諸国首脳会議では、各国の政策目標として国債の半減に合意したのに、日本だけは例外とされたという。これは、日本はもはや先進国の一員として責任ある経済運営ができないことを意味する。国民は、このことも知っており、3年後の衆議院選挙の際に、菅政権がきちんとした財政再建策を提示すれば、妥当な選択をする可能性は希望として残っている。
今回の選挙において、国民は若い世代も含めて、国政や政策課題について一層身近に責任感をもって思案するようになってきているとうかがわれる。議会制民主主義の成熟に向かう日本の前途には、あまり心配がないと考えたい。なお、沖縄基地の辺野古への移転問題は、依然として大きな懸案として残っているが、菅政権が早急にうまく解決することは一層困難となったとみられる。しかし、この基地移転は、これまで自民党政権によってさえ実現できなかったのであるから、たとえこれ以上解決が遅延しても、政治的には許容されるべきであろう。むしろ、菅政権としては、日米関係が当面悪化しないように心掛けていればよいのではないかと考える。
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