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2010-07-20 00:00
小沢過大評価はマスコミの虚像
杉浦 正章
政治評論家
新聞、テレビの報道ぶりを見ると、民主党前幹事長・小沢一郎が政局のすべてのカギを握っているような印象を受けるが、果たしてそうか。買いかぶりすぎていないか。「小沢の沈黙は、そこが狙い」(渡部恒三)ではないのか。そろそろメディアも、すべてを小沢一郎に帰する「小沢神話」や「唯一論」を脱却して、政治を見るべき時が来ているのではないか。小沢は週明けから活動を再開するようだが、冷静に見れば、小沢が“活躍”できる場は極めて限られている。
その理由は、まず第1に、焦点の参院選の責任論だ。もちろん首相・菅直人の消費税発言が原因の一つではあるが、すべてではない。小沢の責任に帰するものが半分以上はあると思う。ひとつは、小沢選挙戦略の完全なる失敗である。複数区に複数候補を立てて対立が生じた結果の敗北が歴然であり、比例票の掘り起こしにも全くつながらなかった。2人区のすべてで、比例票は前回を下回っている。追い風の選挙戦術を逆風選挙に応用するという、だれが見ても稚拙な戦術を展開した結果だ。もっと政治的に大きいのは「鳩山・小沢体制」による大失政の余じんがくすぶり続け、これが不信感の継続となって選挙戦を直撃したのだ。したがって小沢は、、自らの選挙責任を認めるべきことはあっても、他人の責任を追及できる立場にはない。
第2の焦点は、「政治とカネ」のぶり返しだ。第1検察審査会の「不起訴不当」の議決に加えて、第5審議会の議決が「小沢政治」を直撃しうる要素を持っている。第5審議会は、10月までの任期のうちに議決するものとみられるが、「起訴相当」「不起訴不当」「不起訴相当」のうち、手続きが終了する「不起訴相当」はまずないとみられている。問題は議決がいつ行われるかだが、民主党代表選後の9月か10月となる公算が大きいようだ。小沢が立候補して勝った場合を想定してみよう。小沢は首班指名で首相になるが、直後に検察審議決が直撃する。憲法は、首相の同意がなければ国務大臣の刑事訴追はできないと定めており、首相の訴追は憲法上も不可能である。しかし、政治的責任から免れられるわけがない。議決を受けて政局は大混乱に陥り、内閣は総辞職か、解散へと追い込まれ、民主党政権は1年余で潰(つい)える。それでも小沢が代表選に立候補するだろうか。まずないだろう。代理戦争がいいところだ。
第3の焦点は、大連立だ。消費税など政策限定の大連立の可能性は否定できない。しかし、いくら過去20年間にわたって再編の主役を務めたからといって、今回も小沢主導で大連立があり得るかということだ。選挙直後の動きからみて、状況が整う方向にないと思う。2007年の大連立の仕掛け人である読売新聞グループ本社代表取締役会長・渡辺恒雄は、とっくに小沢を見限ったと言われている。コーディネーターがいないのだ。既に自民党は早期解散・総選挙による政権奪還に照準を合わせており、政局は「協調より対決」を基調に展開するだろう。自民党政調会長・石破茂が言うように、「大連立は小沢イズムが壁となって作用する。何があってもやりたくない」のだ。むしろ、「大連立なら小沢抜きで」ということになりうる。小沢と親しいたちあがれ日本共同代表・与謝野馨が財政再建などでの救国的大連立を唱えているが、自民党を出てしまった今は、外野のヤジの部類にとどまる。政策での大連立は、党機関対党機関の調整が必要となり、小沢流の裏技は利きにくいのだ。
また消費税での大連立といっても、菅が「消費税は総選挙の後」と発言しているのに、大連立でもあるまい。総選挙前は、対立がどうしても前面に出勝ちだ。自民党総裁・谷垣禎一も大連立の可能性を「ゼロです」と否定している。それでは新連立の可能性だが、否定できないのは、公明党との連立だが、選挙直後に小沢ペースに巻き込まれては、公明党にとって「外聞が悪すぎる」ので当分はできないだろう。せいぜい政策ごとの部分連合だ。こう見てくると、主要政治テーマで小沢は越えがたい壁にぶつかっていることが分かる。参院選挙敗北でまぎれもない“責任者”の一人である小沢だけが生き残って、衆院選直後のような力を発揮できる余地はなくなってきているのだ。マスコミの“虚像”を作り上げるような無責任な小沢過大評価が、この国の政治を「政局過多」にして、真面目な政策論議を遠ざけていることを認識しなければなるまい。
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