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2010-08-09 00:00
「拡大核抑止」から「通常兵器も含む拡大抑止」へ
堂之脇 光朗
日本紛争予防センター理事長
本年5月のNPT再検討会議が、内容的に弱められたとは言え、具体的な「行動計画」を含む最終文書を採択したのは、少なからぬ成果であった。オバマ政権の立場からすれば、NPT会議の成功なしには核不拡散体制の維持・強化も、「核なき世界」に向けての前進もあり得なかったので、会議成功のための周到な準備が報われたということであろう。その一つが本年4月の「核政策見直し」の公表であり、もう一つが米露「新START条約」の調印であった。いずれも今後数年間は有効な文書であり、中間選挙を控えた米国政情の短期的動向とは関係なしに、核兵器への依存度低下の趨勢が示されたことが注目に値しよう。
第一の「核政策見直し」の核心的な部分は、核兵器の「基本的な」目的は核攻撃の抑止であり、これが「唯一の」目的となることを目指すが、消極的安全保障との関連ではNPT加盟国で不拡散義務を遵守する国に対しては、たとえ化学兵器や生物兵器による攻撃を受けた場合であっても、核兵器は使用しないとした箇所である。通常兵器の抑止力で目的は達せられるとの理由からである。米国の立場からすれば、北朝鮮とイランはこの義務を怠っているので、いかなる攻撃に対しても核兵器による反撃は可能であるが、両国が不拡散義務を遵守するようになった場合には、核兵器は使用しないとするのだから、大胆な方針転換である。わが国についてみても、「核抑止力」でなく「通常兵器による拡大抑止力」に依存する度合いがそれだけ増えることになるであろう。但し、この「核政策見直し」では、化学兵器は別として、生物兵器に関しては、最近の進歩にかんがみ再調整もあり得ると断っている。この最後の点については、筆者個人としては、生物兵器はその性質上甚大な被害が瞬時に広範に発生するとは想定し難いので、再調整を必要とする根拠は乏しいとの立場である。
第二の米露「新START条約」で核兵器への依存度を減らすとの観点から大いに注目に値するのは、ICBM(大陸間弾道ミサイル)およびSLBM(潜水艦発射式弾道ミサイル)に搭載される弾頭は、核兵器であろうと、通常兵器であろうと、同一に数えるとの計算方式である。両国は7年以内に戦略兵器運搬手段の上限を800、そのうち実戦配備の運搬手段の上限を700、実戦配備の戦略核弾頭数の上限を1550とすることに合意した。通常兵器弾頭をICBMやSLBMに搭載できるようにした米側の狙いは、イランや北朝鮮などの遠隔地では速度の遅い巡航ミサイルでなく、長距離弾道ミサイルを使って迅速に通常兵器弾頭で攻撃を加えられようにすることのようである。この方式では、通常兵器戦力で圧倒的に優勢な米国のみを利することになるので、ロシアは当初はこれは戦略兵器体系を不安定化させるものとして強く反対したようであり、恐らく中国も同様の立場であろう。しかし、結局この方式が合意されたことは、将来的には他の核兵器国も次第に米国を見習い、核兵器への依存度を減らしていく可能性を示唆しているように思われる。
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