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2010-09-03 00:00
洪水被害の北朝鮮への緊急人道支援を検討せよ
水口 章
敬愛大学国際学部准教授
8月26日、北朝鮮の金正日総書記の専用列車が中国に移動するのが目撃された。韓国と日本のメディアはこぞって、その一行の動向について報じている。この動きがこれだけ注目されている理由は、6月23日に朝鮮労働党が行った「決定的な転換期を迎えているわが党と革命発展の新たな要求を反映させ、朝鮮労働党最高機関選挙を行う党代表者会議を9月初めに招集する」との発表内容を踏まえて、金総書記がその後継体制について中国首脳と事前の意見交換をする可能性があるとの分析があるからである。現在のところ、この北朝鮮の一行の主たる訪問者が誰なのか(金総書記もしくは同氏の三男で後継者と見られているジョンウン氏、または両人)、訪問目的は何か、随行者はどうか等について、何も明らかになっていない。
しかし、次の4点を勘案すれば、訪中した人物は最高意思決定権者(金正日総書記)である可能性が高い。すなわち、(1)一行が故・金日成主席のゆかりの地である吉林省にある中学校を訪問したこと。(2)鴨緑江の氾濫により北朝鮮で大きな自然災害が発生し、食糧支援が必要になっていること。(3)韓国との間で哨戒艦「天安」沈没事件、テスン号拿捕事件などの緊張を抱えていること。(4)米国のカーター元大統領が米国人投獄者の釈放要請のため北朝鮮を訪問したが、北朝鮮要人と面会する機会が与えられなかったこと、の4点である。また、主要な訪問目的は、「決定的な転換期を迎える」ために、中国の支援を確保することであろう。
このように、北朝鮮で大きな政治変化が起ころうとしている時に、また同時に大洪水により北朝鮮の人々が緊急支援を必要としている時に、日本はどのような政策を立案すべきだろうか。政策立案に際して考慮すべき国際的要因としては、(1)哨戒艦「天安」沈没事件以降の米・韓と北朝鮮の関係、(2)6者協議の再開をにらんだ北朝鮮の核開発問題に関わる動き、(3)中国と北朝鮮の関係、(4)日本と韓国の関係、(5)国際的な対北朝鮮経済制裁の動向、(6)北朝鮮とイランの関係、の6点がある。また、考慮すべき日本国内の要因としては、(1)対北朝鮮人道支援に向けての市民団体の動き、(2)拉致問題解決のための政治圧力、(3)民主党の安全保障認識、(4)国内の朝鮮半島関係者の動向、の4点が挙げられる。
洪水への緊急支援に関し、韓国では「食糧支援の一部を再開すべきだ」との意見も聞かれている。しかし、同国政府内では「時期尚早」との見解が大勢を占めており、具体的支援策は未だ表明されていない。そのような中で、日本独自の支援策を打ち出すことは難しいが、人道的見地からすれば、韓国と協力し、米国の了解を得て、大洪水の被害者への緊急人道支援を行うという政策立案をすべきではないだろうか。国益を超えた人道の観点で保護する責任を果たすことが、人と人との信頼関係をはぐくむきっかけとなると思われる。こうした重要な外交の機会に、日本の政治家たちや市民団体がどのような発言を行うのか、注視したい。
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