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2010-09-15 00:00
「何でもあり政局」の幕が開いた
杉浦 正章
政治評論家
負けた小沢一郎と旗振り役山岡賢次の泣き顔を見たいと思っていたが、見ることができた。残念ながら、泣かなかった。なにか「正義」が勝ったような気持ちになるが、これは錯覚だろう。菅直人の勝利は、短期の首相交代に反対する「ころころ論」と“悪役小沢”の存在に起因する消極的選択の結果だ。菅の評価は、これからの政権運営にかかっている。鳩山由紀夫の言う「大義」は、小沢サイドにはないことが証明され、民主党は小沢という致命傷になりかねない“劇薬”を使わずに済んだ。しかし小沢支持200人という「巨大党内野党」の存在が、陰に陽に菅政権を不安定化することは避けられない。
今度の政局報道は「朝日効果」が小沢を不必要に大きく見せた。朝日新聞だけが、最後の最後まで「菅優勢」に踏み切らず、「接戦」の判断をもとに編集をし続けた。9月14日の朝刊でも「伯仲の国会票・大激戦」と接戦を意識した見出しだった。これが、「ひょっとしたら、小沢が勝つかも知れない」という誤判断を永田町に生じさせ続けたのだ。大新聞の情報過多が理由か、官僚化して野性味のある政局総合判断が出来る幹部がいないのか。山岡発の“流言”に惑わされたのか。それとも党員・サポーター票の分析力欠如が原因なのだろうか。それに比べると「家貧しうして、孝子顕(あらわ)る」が毎日だ。8日の段階で最初に「菅優勢」を打ち出して、以後一貫して変わらなかった。政局記事も一番冴えていた。ここぞという歴史的な政局の勝負所で、毎日が勝って朝日が負け、読売は9日毎日を追うように「菅氏を小沢氏が猛追」と、「菅リード」と踏み切らないままに、苦肉の策のような見出しをつけていた。勝負所では勝負しなければ、ジャーナリズムとは言えない。
ところで政局の展開は「何でもあり政局」となる。小沢は「一兵卒になる」と当分死んだふりをするだろうが、また血が騒いで動き出すに決まっている。3か月前にも辞任に際して「一兵卒」と言っており、小沢の「一兵卒」とは「また勝負する」の意味に違いない。とっかかりは予算編成だ。菅との間でマニフェスト完全実施問題と消費税をめぐり抜き差しならぬ対立の構図が生じている。小沢は、年末までの予算編成の過程で、折に触れてクレームをつけるだろう。これが党分裂の引き金となることはじゅうぶんあり得る。場合によっては「小沢離党・菅政権と自民党の大連立」へと発展しうる要素もある。菅にしてみれば逆風の中で小沢支持の結束を見せた「党内野党」を、いかに結束させないか、が当面最大のテーマだ。もちろん人事でいかに取り込むかが焦点だが、まず小沢の幹事長など要職への起用はないだろう。支持基盤を失いかねないからだ。党最高顧問とか代表代行など名誉職を持ちかけた場合、小沢が受けるかどうかだ。官房長官・仙谷由人は留任だろうが、他の重要ポスト説もある。幹事長候補には岡田克也が適任と思うが、外相も「ころころ」代えない方がいいポジションであり、微妙だ。
野党は、自民党総裁・谷垣禎一が「一刻も早く解散・総選挙に追い込む。民主党とは対峙してゆく」と述べており、基本は対決姿勢を維持するだろう。「政治とカネ」を筆頭に材料には事欠かない。国会における“ねじれ”は過去3代の自民党首相が短命に終わった事が物語るように、菅の政権維持を容易でないものにし続けるだろう。谷垣は「大連立はない」としているが、小沢が離党した民主党であれば「消費税増税」を軸にした連立はあり得ないとは言えない。来月には検察審査会の議決が予定され、小沢が強制起訴となれば、即国会審議へと波及する。政局は今後ダイナミックな展開があり得るとみておいた方がよい。
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