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2010-09-25 00:00
(連載)中国漁船衝突事件の処理について思う(1)
吉田 重信
日中関係問題研究家
9月24日、「那覇地検の判断」によって、中国漁船の船長が釈放され、帰国したことで、日中関係の緊張が緩和する方向に向かう見通しとなった。こうした展開は、大筋において、筆者が予想していたとおりであり、日本政府による妥当な措置であると評価する。記者会見した次席検事の説明によれば、「船長の行動は、追跡を免れるためにとった行動であり、計画性は認められない」とされている。つまり、法律のプロからみて「公務執行妨害の罪に該当しない」という判断ともとれ、「海上保安庁による公務執行妨害罪の適用に疑問をもった」と暗示しているようにも読める。他方、市民の自由と権利を保護する観点から言えば、ある行為が公務執行妨害罪に該当するか否かについての判定は、極めて慎重に行われなくてはならない。そうでないと、取り締まり当局の独走によって、市民の自由と権利が侵される恐れがあるからである。今回の「那覇地検」の判断は、関係法令の解釈と適用の前例に基づいて行われたものだろう。恐らく検察官としては、たとえ起訴しても、裁判官の理解が得られないと予想したうえでの判断であるとも推察される。こうした検察官の判断は、認められた権限内のものであり、尊重されるべきである。
それにもかかわらず、この検察官は「日中関係をも考慮した」との発言をした。この発言は余計で、不適当な発言であった。何故なら、検察官や裁判官は、かつての大津事件(ロシア皇太子襲撃事件)の裁判のように、法律的判断を優先すべきであり、外交関係に及ぼす影響などという政治的配慮を加えるべき立場ではないからだ。この点に関しては、菅政権は、野党などから「司法に対する政治介入」であると批判されるのを恐れてか、「政治判断」との巷の風説を否定している。しかし、新政権の要諦として「政治主導」を掲げる菅政権としては「この問題の処理は政治主導によって行われた」と、胸を張って説明した方がつじつまが合って、わかりやすかったのではないだろうか。
いずれにしても、今回の政府による措置は、日中関係のこれ以上の悪化を避け、両国関係を正常な軌道に戻すために、必要かつ妥当な措置であったと評価したい。しかし、さらなる上策としては、船員を解放し、帰国させた時点で、船長を厳重注意処分、もしくは罰金等の略式処分とし、その上で釈放するという選択肢があったと思われる。領海内とは言え、北朝鮮の不審船などとは違う、ただの漁船なのである。そうすれば、過剰反応とも見られる中国政府の「報復措置」を回避できたかも知れない。かつて、北朝鮮の「金正日の長男とおぼしき人物」が密入国で摘発、拘留された際、ときの政府は「政治判断」で、あえて人物を特定しないまま、数日のうちに国外退去処分にした。この処分は、一部右派勢力からの批判はあったものの、今にして思えば「賢明な措置」であったといえよう。外交はある種のゲームであり、「機敏さ」や「あいまいさ」も、場合によっては必要なのである。
今回の政府の措置について、野党になった自民党は「中国の圧力に屈した」との批判を行っている。しかし、こうした自民党の姿勢は、これまで、小泉政権時代を除く歴代の自民党政権が、中国との関係を正常化し、その後も友好・交流の発展、強化に寄与してきた経緯と実績、責任を忘れたかのように見える。短期間のうちに野党根性が身についたのであろうか。再び政権党に復帰する意思も可能性もないことを示しているように見える。また、「中国側の恫喝に屈するな」として強硬策を主張してきた一部マスコミや右派言論人たちは、日中関係の悪化を期待していたようであるが、今回の急転直下の問題解決で、悔しがり、いきがかり上、政府の「外交的敗北」をあげつらっている。どうやらこの人たちは、よほど「敗北感を味わう」のがお好きであるらしい。しかし、日中関係が実際に悪化すれば、良好な日中関係から得られるさまざまな利益を失うだけでなく、国際政治全般における日本の外交能力の劣化をさらけ出す危険がある。つまり、悪化した日中関係は、ロシアや北朝鮮などを利するのみならず、日本が一層、米国に依存せざるを得ない事態をもたらし、結果として日本外交の選択の幅を狭める結果を招くであろう。現に、米政権首脳は「今回のような問題は日中二国間で解決すべきである」としつつも、場合によっては、調停、介入の余地があるとの意向を表明している。米国が介入するような事態は、日本としては、よほどのことがないかぎりは、避けることが賢明である。(つづく)
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