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2010-09-29 00:00
尖閣問題で露呈した日本の国家的欠陥
田久保 忠衛
日本国際フォーラム緊急提言委員長
尖閣諸島近海で行われた中国による領海侵犯事件について、私は、9月15日付の産経新聞「正論」欄で私見を述べたが、ここでは、それをさらに絞って、核心だけを伝えたい。要するに、戦後の日本は憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」を土台にして自国の安全保障を怠けてきたが、「平和を愛さない」隣国の前で仮構は成立しないことが証明されたのだ。戦後体制のこの思想は、青山学院大学名誉教授だった永井陽之助が唱えた「軽武装・経済大国」を目指す「輝かしい吉田ドクトリン」(文藝春秋社刊の『現代と戦略』)論だし、外務事務次官当時の小和田恆氏が説いた「ハンディキャップ国家論」である。
「吉田ドクトリン」は「自民党の宏池会と日本社会党が支えてきた」と永井氏は指摘した。この流れは現民主党政権に継承されているし、自民党にも意識しているかどうかは別にして、同調者は少なくないと思われる。「吉田ドクトリン」派の一大特徴は、自国の安全保障体制の強化・充実に消極的であり、日米同盟の本質が何であるかの理解が薄い。一例を挙げれば、自民党宏池会の流れを汲む加藤紘一氏や民主党の小沢一郎元幹事長の口から飛び出す「日米中正三角論」である。三カ国のうち日米関係は同盟関係にあるとの視点は皆無だ。
日本人全体に国家における軍隊の意味がわからなくなっている。自衛隊は米国の強い要請で警察予備隊から出発したとの出自がある。だから、(1)国民の尊敬を集めて生まれた「国の暴力装置」ではない、(2)政府の答弁も「通常の概念では軍隊ではないが、国際的には軍隊と見なされる」で、自国の軍隊をこのように解釈している国は世界にない、(3)「自衛隊の法体系は警察法体系」という、他国に例を見ない縛りがかけられているうえ、「専守防衛」、「非核三原則」などの規制がかけられている--など動きがとれない状況にある。外交と軍事が一体化しておらず、自衛隊が「普通の民主主義国」の軍隊ではない事実を放置したまま、「中国には毅然たる態度で」とか「筋を通して」とか「国益を考えて」などとカケ声を掛けてみても、空しくはないだろうか。
具体的には、今回の尖閣問題でさながらサンドバックが連打を浴びるようなパンチを浴びてマットに崩れ落ちた「日本」の実状を直視しなければならない。海上保安庁の巡視船には、中国の漁船なり監視船が領海に入ってきても、退去を求める権限しかないし、海上自衛隊には領海警備の任務は与えられていない。尖閣諸島はまさに風前の灯である。まことに遅まきではあるが、日本は「軍隊」を持つよう懸命の努力を払うべきだし、同時に日米同盟を強化しなければならないのは当然だろう。国がかかえている一大欠陥を論じないで、技術面の議論があまりにも多すぎるのではないか。
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