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2010-10-13 00:00
中国の旅より帰国して思うこと
吉田 重信
中国研究家
筆者は、9月25日付けの本欄に「中国漁船衝突事件について思うこと」と題する意見を発表した、翌26日早朝に出発して、上海、北京をはじめ中国各地6か所を訪問し、10日10日に帰国した。この旅行中、つねに筆者の脳裏にあったのは、最近の日中関係緊張の動きに関する懸念であった。したがって、当然ながら、出会った中国側の日本研究者、日、米、オーストラリアの外交機関関係者、日本人記者、研究者、企業関係者らと、当面の日中関係の状況について意見を交換した。帰国後、このような日中関係も、日中の国家と政治家同士による事態の緩和ないし打開措置により、菅首相が「日中関係は元に戻りつつある」と発言するような状況になった様子に、ひとまず安堵した。これらの過程を経た、最近の日中関係の動きの総体については、いずれ考察の結果をまとめて述べるつもりであるが、とりあえず現時点での見解を記しておきたい。
菅首相の一連の発言に至るいきさつについては、筆者がつとに予測したシナリオの範囲内にある。しかし筆者は、このような試練を経た日中関係は、早急に元に復するほど容易な状況には置かれていないし、また安易に表面的な回復が図られてはならないと考える。むしろ、この際、さしずめ、ほぼ40年前の日中関係正常化のための交渉の時点に戻ったつもりで、改めて両国関係修復の方策について、日中政府間でしっかりと協議し、本格的な正常関係を構築していくべきであると考える。なぜならば、日中間の戦争状態の終結と処理を目指した、1972年の交渉が、いまにして思えば、いとも安易、拙速に行われたことによる弊害に気付くからである。筆者は、今回の日中関係悪化の遠因の根源には、この40年前の交渉があるのではないか、と考える。
たとえば、今回問題になった「謝罪と賠償」をめぐる取り扱いも、今後深く尾を引くことになる可能性がある。したがって、今後は、たとえ一年や二年かかっても、十分な時間をかけて、両国間で協議し、円満かつ合理的な妥結に至ることが望まれるのである。この協議には、これまで安易に使用されて、意味不明であった、いわゆる「戦略的互恵関係」の中身の詰めや、とくに今後の日中関係において残る緊張要因を除去ないし緩和するための具体的方策、紛争が起こった際の具体的対応策やメカニズムが含まれるべきであろう。これらの努力を通じて、今回の試練を経た日中関係が、新たな段階に達し、今後の世界情勢に即して的確に対応しながら、双方がそれぞれ責任ある役割を担うようになることを願うのである。それは、日本にとっては、今後一層の交流が期待される隣国でありながらも、異なった国家体制にある超大国中国との間に、安定した、共生・共存を図るための新たな道を探ることでもある。
帰国してまず注目したのは、中国や菅政権に対する最近のわが国の世論調査の動向である。これによれば、中国に対する日本国民の不信感は、20%以下から80%近くに急上昇している。かつての日中国交正常化のころの日本国内の「中国ブーム」現象とは様変わりしており、憂慮すべき事態である。また、日本政府が中国漁船の船長を早期に釈放した措置に不満を表明する者は、80%近くもいる。他方、最近の菅・温両首相による「廊下会談」を評価する者は、60%に近い。そして、結果として、菅政権を支持する者は、大幅に減少したとはいえ、それでもなお49%を保ち、不支持の39%を超えてはいる。国民は、引き続き菅政権の存続を望んでいると解することができる。筆者は、このような世論の動向は、国民の妥当な判断を反映していると考える。中国政府は、自らの国内の事情だけではなく、このような民主主義体制下のわが国世論の動向にも注意を払って欲しいと願うものである。
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