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2010-10-23 00:00
中国の前原外相外しを許してはならない
伊藤 憲一
日本国際フォーラム理事長
尖閣諸島沖事件をめぐる前原誠司外相の発言を問題視する向きがある。「中国の求める賠償や謝罪は全く受け入れられない」「国会議員は体を張って(尖閣諸島を)実効支配していく腹づもりを持って」「(尖閣諸島の領有権を)1ミリとも譲る気持ちはない」「(棚上げについて」中国側と合意した事実はない」などの発言は、日本の国益と立場を踏まえた発言として、当然の発言であり、筋道通ったものだと思うが、中国外務省の局長級(外務次官補)の一官僚が「(前原外相は)毎日、中国を攻撃する発言をしている」と、発言の内容に立ち入った名指し批判をした。無礼と言わざるを得ないが、そこにはそれ以上の深刻に憂慮すべき事態も生まれている。
この事態は、逆の事態を想定してみれば、その異常さが分かる。どこかの国の外相が日本にとって不本意な発言をしたからといって(北方領土問題に関するロシア外相の発言は、いつも断定的で、一方的だ)、その発言自体を「けしからん」ということはできない。それを相手国の外交的な意思として受け止めて、その心づもりで外交交渉に臨めばよいだけのことである。中国も同じ立場にいるはずである。しかるに、中国は問題を前原外相に対する個人攻撃にすりかえ、前原外相をつぶすことによって、日本の対中外交にたがをはめようとしている。そこには日本を対等な独立国として見るのではなく、上から見下ろす危険な対日外交観の萌芽さえ見られるのである。
だから、問題は、日本の国内の受け止め方なのであって、そこに隙があるから、こういう内政干渉めいた中国側の動きを誘うのである。10月23日付けの朝日新聞の本件に関する報道ぶりは、まさにその好例である。記事としての客観性を放擲し、中国側の狙いに呼応して、前原外しに加担している。国益を害する行為であると言わざるを得ない。「前原発言、中国イライラ」「関係修復進まぬ一因に」という見出し自体が、朝日記事の報道の客観性欠如を露呈しているが、「中国政府内ではそもそも、前原氏への不信感は根強い」「中国当局はこれを機に、一気に前原氏外しを進める」との思わしげな言葉で記事を締めくくっているのは、看過できない。
これによって、今後日本の外相が中国に対して言いたいことが言えず、言うべきことが言えなくなってよいのであろうか。外相がそうなら、大使、局長など、日本外交の担い手たちはみな、右へならえをするようになるであろう。中国側のご機嫌を窺うようになるであろう。日本外務省の中国サービスには、残念ながらすでに長くその気配が見られたことを否定できまい。というよりも、中国以外の国との関係でも、日本の大使たちは、相手国の心証を気にして、その国の首脳にすり寄る気風が広く定着しているように見える。それというのも、大使たちの勤務評定が、ことなかれ主義に流れ、たとえ言わねばならぬことでも、それを言って、相手国との関係をギクシャクさせると、減点となり、無難に徹して、いわゆる「友好関係」に貢献すると、名大使といわれる戦後日本外交の風景がそこにあるからである。中国の前原外相外しの動きの背後には、このような戦後日本外交の抱える根源的な問題があることも、同時に指摘しておきたい。前原外相には、中国側の牽制にひるむことなく、正論を言い続けてほしい。そして、戦後日本外交の悪弊に率先してとどめを刺してほしい。
(注)当政策掲示板の編集部を代表する立場にある者として、編集部の中立性堅持の観点から、これまで当政策掲示板での意見表明は差し控えてまいりましたが、新聞にも「社説」欄があるのだから、「どうしても」「やむにやまれず」という気持ちのときには、私見表明も許してもらえるのではないかと考え、今回一筆いたしました。ご理解を頂ければ、幸せです。伊藤憲一
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