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2010-10-25 00:00
「平和的台頭」を明記しなかった中共五中総会声明
吉田 重信
中国研究家
中国共産党第17期中央委員会第5回総会が「声明」を発表して、閉会した。今期総会は、中国の還暦ともいうべき、中華人民共和国創建61周年を経た、一つの結節点において、今後の党指導による国家運営のための基本方針を打ち出したものである。「声明」に示された方針は、これまでの慣例に基づき、あらかじめ政治局員による会議、とりわけ数人の政治局常務委員による討議の結果を反映するものである。このような党内最高レベルにおける討議は、かなり事前に時間をかけて準備されたものであるが、その討議とりまとめに至る過程で、中国の内外情勢に大きな変動が生じたこともあって、今回の「声明」は、これら一連の党内討議の結果を反映するものとみてよい。中国共産党の権力の中枢における協議は、2年後に迫った胡錦涛などの後継者選びが、事実上の最重要課題であり、内外情勢の評価と情勢への対応方針などをめぐり、党内の路線闘争を反映するようなさまざまな兆候がみられ、また推測も含めた噂が流布された。
たとえば、路線闘争の中心的な争点は、今後とも「毛沢東思想を堅持しつつ、党独裁体制を堅持するか否か」であり、また、一方では、「政治改革をいかに進めるか」という問題であったと思われる。このような情勢のなかで、胡錦涛党主席や温家宝首相などは、政治改革推進を支持し、他方、軍部に支持された習近平勢力は、政治改革に消極的であるとされた。現に、習近平は、ある非公開の会議において、「毛沢東思想の改ざんは許さない」と述べたと伝えられた。これに対して、共産党の引退幹部たる李鋭などが、国内の状況を批判する意見を中央委員会総会の直前に発表するなどの動きがあった。また、おりしも日本との関係において、中国漁船の衝突、拘留事件の処理をめぐって、温家宝首相などが、これまでにない強硬な姿勢で臨んだ背景には、対日強硬論を主張する軍部の動きがあったともいわれた。他方、日本に対する中国の強硬な姿勢の結果、中国国内の内陸部では「反日デモ」が続く一方で、国際的には、中国が標榜する「平和的台頭」の姿勢に対し、多くの民主主義諸国から疑問が投げかけられる状況となった。加えて、そうした微妙な時期に、服役中の民主活動家、劉暁波へのノ-ベル平和賞の授賞とそれに関連する内外の動きも、党内に深刻な波紋をもたらしたとみられる。
結果として、今回の声明は、中国の抱える内外の諸難題についての指導部の危機意識と解決の方針を反映するものとなった。しかし、「声明」で明らかにされた項目は、おしなべて總花的であり、また各項目には矛盾するものが少なくない。たとえば、「声明」にある「共産党の指導の維持」は、「社会の調和・安定の維持」と矛盾し、また、「国防と軍隊の近代化の強化」は、これまで標榜してきた「平和的台頭」とは矛盾がある、といった具合である。そして、今回の「声明」では、「平和的台頭」が明記されていないことが注目される。また、「声明」は、習近平の党軍事委員会の副主席就任を決め、これによって習は次期後継者たる地位を確保したとされる。しかし、筆者は、後継者としての習の地位は、まだ確定したわけではないとみる。なぜなら、これまでの中国最高指導部の交替においては、後継者として選ばれた者の地位は、むしろ不安定な事例が少なくなかったからである。毛沢東の後継者と憲法にまで明記された林彪、周恩来の後継者とされたトウ小平、「君がやってくれれば安心だ」というお墨付きで毛沢東の後継者として選ばれた華国鋒などは、その後の情勢の変化や諸勢力の力関係の変化に伴い、いずれも失脚し、結果として彼らは、過渡的な「あて馬」の役を演じたに過ぎなかったからである(ただし、トウ小平だけは、一時失脚したが、後に不死鳥のように復活した)。
今のところ、習近平は、軍部や江沢民元主席系の勢力の支持を受けており、その地位は比較的強固であるとみられている。しかし、習の党主席就任が確定するまでの、これからの2年間に、内外情勢の激変や、それに対する中国政権の対応いかんによっては、習の党主席就任が実現せず、予想外のダークホースが登場する可能性も否定できない。その際、「声明」に謳われた項目における、上記のような矛盾の解決の成否は、習の後継者としての地位の安定度にも影響を及ぼすことも考えられる。結論として、筆者は、今後、中国の政権とその内外政策は、政権の後継者の地位が強固になるまでの、少なくともこれから数年間は、過渡的で、不安定なものになるのではないか、と予測する。
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