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2010-11-16 00:00
ロシアに揉み手する外交は、やめてほしい
河東 哲夫
元外交官
11月15日午後9時のNHKニュースを見ていたら、日ロ関係の話になり、メドベジェフ大統領が国後島を訪問したことに触れて、「日ロ関係はこれまでで最も悪い。麻生・鳩山政権が『ロシアは北方4島を不法占拠している』などと、刺激的なことを言うから、こういうことになった。日本は何とかしなければならない」というトーンが貫かれていた。まるで「日本が悪いから、メドベジェフが島に行った。ロシアに謝ってでも、気を取り直してもらおう」と言わんばかり。これでは、日本はまた一人相撲になるだろう。自分で自分に足をかけて相手の目前ですってんと転ぶのだ。ロシアが実効支配している島に大統領が行っても、日本としてはどうしようもない。スピッツのように鳴きたてるだけでは、相手に馬鹿にされるだけだ。「メドベジェフ大統領が島に行ったが、これで日本側の立場には何の変更も生じない。日本はこれまで同大統領が約束してきたとおり、この問題の解決をめざしてロシア側と交渉を続けて行く」という声明を出し、それを国際的にも周知させておけば、それで十分だったのだ。
ただ、同大統領が歯舞・色丹をも訪問して、日本の傷に塩を塗ることがないように、牽制だけはしておかないと(具体的に何かはここでは言わない)、いけない。相手のマイナスな行動にはマイナスな行動で対抗する。金をやったり、謝ったりして、相手のマイナスな行動をさらに助長するのは下策であり、自分の品位と立場と財布を害するだけだ。「不法占拠という言葉を日本政府が使ったのが悪い」とNHKは言うが、それが歴史の真実なのだからしょうがない。強い言葉のやり取りは、米国・ロシアやNATO・ロシアの間では日常茶飯事のことだ。それでも、互いに謝ることも、カネを支払うこともなく、翌日はしれっとして握手している。それが欧米諸国の外交のやり方だ。「北方領土問題を何とかしなければ」とNHKは言ったが、今、領土問題(実際は戦後の国境を画定する問題なのだが)を解決しようとせっついても、日本が100%譲るならまだしも、これから大統領選挙に入ろうとするロシアが、応ずるはずがない。不利な状況の中で急いでどうする?
中国は、ロシアとの国境河川の川中島の帰属問題を、じっくりと腰を落ち着けて待ち、時至ってロシアが譲って、静かに解決した。ウラジオストックとその周辺の沿海地方は、1860年まで中国領だったが、中国はそのことを教科書で国民に教えつつ、ロシアに対しては、静かに構え、時が熟するのを待っている。そうした方がロシアにとっては怖いのだ。日ロの間でもそうしておけば(もちろん政府間ではこれまでと同じく、北方領土問題解決を強く働きかけていく。外に対してはスピッツみたいにキャンキャン言わない)、領土問題はロシアにとって負担になっていく。それにロシアは、2012年ウラジオストックでAPEC首脳会議をやるのに、日本との関係が不安定なままでいいのか? そうこうするうちに、焦れたロシアが日本に何かの手段で圧力をかけてきたら、国際司法裁判所に訴えればいいのである。北方領土問題が解決していなくても、シベリアの石油やサハリンの天然ガスは入ってくる。日本は好い値で大量に買い取る。最良の顧客だからだ。ロシアが「中国にだけ売る」と言っても、資源エネルギー庁はロシアに叩頭外交をする必要はない。
ロシアが中国に足元を見られて、安く買いたたかれるだけだからだ。ロシアが政治と経済をリンクさせて、トヨタや日産の工場に嫌がらせでもしようものなら、ロシアがWTOに入れなくなるようにする。国際関係の網の目は複雑に絡み合っていて、日ロの間の力関係は、その総和の中で決まってくる。日ロ関係という狭い土俵でだけ相撲をとっていてはならない。日ロ関係については、1997年の橋本・エリツィン会談以降(2000年までに平和条約を結ぶという約束を両首脳がした)、2000年代初期の田中真紀子・鈴木宗男対立に至るまでの関係者の間の怨念、野心が今でも渦巻く。そしてロシアはロシアで、鈴木宗男は2島だけで譲ろうとしたが故に国内で弾圧されたのだと固く信じている。ロシアは、鈴木宗男が健在ならば、今頃歯舞・色丹の返還だけで日本と「安く」和解できていたはずだと思い込み、なんとか時計の針を逆に回そうとする。鈴木宗男的な人物がまた日本に出てくる日を夢見ながら。だからこそ、北方領土問題のような大事なことには、怨念とか野心を除いて、臨まないと駄目なのだ。
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