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2010-11-18 00:00
ロシア軍事予算50%増――新冷戦へ?
河東哲夫
元外交官
今日、資料をひっくりかえしていて、やっと気がついたが、ロシアは来年度の国防予算を本年のそれから50%増、約2兆ルーブル(5兆3000億円)に増やすのだそうだ。これは日本の国防予算と大差ないし、自衛隊の約25万人に比べてロシア軍は約110万人いるのだから、一人当たり予算は日本の4.5分の1でしかない。ロシアの兵器もインフレの中、値段がどんどん上がっていて、この数年ロシア軍はロシア製兵器をろくに調達できていない(それにしても、日本のメディアも世界のメディアも、この件についてなんで黙っているのだろう)。
それでもオバマ大統領がロシアとの関係のリセット(良くすること)を唱え、11月19日からのNATO首脳会議はロシアとの関係改善を大きく打ちあげようとしている今、この「軍事予算50%増」という数字は独り歩きして、ロシアへの猜疑心を高めかねない。折しも米国では、中間選挙の結果を受けて、オバマ大統領の「生ぬるい」対ロシア政策がこれから批判されていくだろうし、そのなかで現政権が外交のほとんど唯一の具体的成果として死守したい、ロシアとの戦略核兵器削減条約「新START」の議会批准もほぼ絶望になっている。こうやって米ロ関係が後退すると、どうなるか?まずロシアと中国が(互いへの警戒心や敵愾心を抑えて)、共同して米国への対抗姿勢を強める可能性が出てくる。世界金融危機後中国は、「カネの切れ目が縁の切れ目」と言わんばかりに、米国への姿勢を硬化させているからだ。そうなると、ソ連崩壊後の20年間の意味はおよそなくなる。
民主主義、市場経済をロシアに定着させようとしたのに、結局彼らは高い石油を西側に売って稼いだあとで、ソ連的世界へと回帰していくのだ。既に昔の共産党にあたる、官僚層を糾合した「統一」という与党が、社会のおいしい利権、ポストにどんどん触手を伸ばし、自由、改革を窒息させつつある。中国は市場経済になって発展したと言われているが、市場経済も流通面でのことが主体で、結局のところは共産党が国の主な利権を押さえ、土地再開発で経済成長率を膨らませて、見せているのだ。彼らが一党独裁を堅持しようとするのは勝手だが、そこから生ずる権威主義、不透明なビジネス慣行を、新たなグローバル・スタンダードとして押し付けられては、たまったものではない。この20年間で経済力をつけた一党独裁国たちは、その力を鼻にかけて、民主主義・市場経済陣営に盾ついては、自分達の利権・統治構造を保持しようとする――これが今の国際情勢の基本ではないか?
それが事実だとすると、日本にとっては次のことが必要になるだろう。(1)民主主義圏と一党独裁圏の間の対立が国際政治の基調となってくると、国内にもそのイデオロギー的な対立が持ち込まれるかもしれない。この二つの立場が主要な対立軸として、日本の政党地図を再編成する可能性が出てくるかもしれない。(2)現在作成中の新「防衛大綱」は、極東・太平洋におけるロシア軍備の増強の可能性、北方領土問題に対するロシアの姿勢硬化を勘案していないようだが、この点に配慮せずに確定するのか?(3)現在NATOは、アフガニスタンを除いては、軍事組織と言うよりは政治組織としての面が強くなっており、国際関係における一つのバランス要因となってきている。ロシア、中国も、NATOとの関係を強化することにより自国の立場を強めようとしている。日本も当面、ロシア詣でをするより(訪問したところで、北方領土問題は動かない。悪化さえし得る。瘤取り爺さんのような話になる)、NATOとの関係を強化していく方が、日本の国際的立場の向上のために実質的な意味を持つだろう。NATOと関係を強化すると言っても、戦争をするという意味ではない。高いレベルで相互に訪問し合うだけでも、国際場裏では随分なパンチになるのだ。
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