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2010-12-03 00:00
明るいアジア、沈む日本
鍋嶋 敬三
評論家
2010年秋は、一連の国際会議を通じて、発展著しいアジアと政治的にも経済的にも沈滞を極める日本の対照的な姿が、アジア諸国に大写しにされた。アジア諸国の目には、影響力の伸長を図る中国に対してバランスを取るため「太平洋パワー」を再確認した米国との関係が、最大の関心事と映った。そこには世界第二の経済大国を誇った日本の姿は見えなかった。自民党政権以来続く政治の機能不全、民主党政権による信じられないほどの外交的失敗で、世界における日本の評価は地に墜ちた。横浜を舞台にしたアジア太平洋経済協力会議(APEC)サミットを機に、環太平洋経済連携協定(TPP)への正式参加の好機を逃した菅直人内閣は、世界秩序の構造的変化に日本が積極的にかかわる意義を理解しなかったのである。
鳩山由紀夫前内閣での対米関係悪化の蹉跌に続いて、尖閣諸島、北方領土に対する領土主権を中国やロシアに断固として主張し続ける姿勢を示すこともしなかった。南シナ海で中国と領土紛争を抱える東南アジア諸国は事件の成り行きを慎重に見極めていた。事件を契機に、アジア諸国で中国の拡張主義に対する警戒心が急速に高まるとともに、日本の国際場裏における評価が低下したのは当然である。アジア太平洋地域は今や大国の覇権争いの時代に入った。中国、米国に加えロシアも参入した。ロシア大統領の北方領土視察は、菅政権の中国への及び腰からロシアが日本を”easy target” とみなしたことを意味する。大統領選を意識した内政上の理由も一つだが、ロシア政府がアジアの大国として行動する方針を決定したことが背景にある、と識者は指摘している。アジア太平洋のパワー・プレーはますます複雑になるだろう。
シンガポールのリー・シェン・ロン首相によるアジアの将来展望についての考察が興味深い。「中国の成長が世界のバランスを変えた」「米国は長期にわたってアジアで決定的な役割を果たす。いかなる国も米国に取って代わることはできない」「日本はもっと強力な国家的な指導部と精神があれば、アジアや世界のためより多くのことができる」という一連の現状認識に立って、アジアの明るい将来のための鍵を4つ挙げた。(1)中国の平和的発展、(2)安定的な米中関係、(3)開かれたアジア、(4)アジア地域協力の強化、である。日本の直接的な役割への期待は示されていない。
困難な政治的課題を何一つ解決できない日本への低評価が背景にある。2006年に4つの創始国の一つとしてTPPを発効させたシンガポールにしてみれば、昨年11月にオバマ米大統領が参加表明して世界的なうねりを起こした後も、なお真剣さを示さない日本に期待しても無駄だ、という心境だろう。世界的にいぶかしい眼差しが注がれている「内向き」の日本は、アジアでも孤児への道を突き進んでいる。日本にいま必要なのは政治的リーダーシップを根本から立て直し、グローバルな展望に立つ複眼的思考に基づいた外交の再構築である。
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