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2010-12-09 00:00
北方領土返還のためには、まず国民合意形成が先決
松井 啓
日本国際フォーラム政策委員
第二次世界大戦が終焉してから65年が経ったがソ連(ロシア)から収奪された北方領土は益々遠ざかっている。我々はこれまでの経過を冷静に振り返り、北方領土が帰ってくるとの幻想から目を覚ますべきである。そのためには、ロシアがこの問題をどうとらえているかを認識する必要がある。私には彼らの腹の内が次のように見える。
ロシアは日本がポツダム宣言を受諾し、戦争終結を決定した1945年8月15日以降も着々と千島列島に兵を進め、アメリカが異存のないことを確認の上、「北方領土」を占領した。最も少ない流血で最も大きな成果を得るのは戦略の基本である。「第二次世界大戦終結の日」は、日本が連合国への降伏文書に署名した9月2日であるから、それまでに占領した「北方領土」は、明確にロシアの領土である。独仏は両国間のアルザス・ロレーヌの帰属をめぐって何回も大戦争をした。従って、戦後のヨーロッパでは国境線を変更する試みは平和を乱す行為でとみなされることを、日本は良く認識すべきである。アメリカも、周辺国のいずれも、この日露間の領土問題にはかかわりたくはない。中国が国力を増しつつあるので、ロシアは国防の主力をヨーロッパからアジアに振り向ける必要があり、中国海軍が増強されればオホーツク海の重要性は益々高まってくる。「北方領土」はオホーツク海への出入りを制約できる死活的に重要な位置にあるから、ここを他国の手に委ねることは、戦略上あり得ない。
「北方領土」はロシアが実効支配しており、日本が尖閣諸島を実効支配しているのと同様に、現状を変更する必要性はなく、ロシアにとってこのままで全く何らの支障もない。ロシアは息が長く辛抱強い。特に、時が味方をするならじっと動かないのが一番の得策である。「北方領土」からは日本人を追い出してしまったので、ヨーロッパの係争地に見られた「民族混住地の帰属は住民投票で決める」というやっかいな問題もない。日本はかつて領土問題が解決しなければ経済交流はしないと言っていたが、次には経済と政治は車の両輪で同時に推し進めるべきと言って来た。今度は経済を先に進めれば、政治もついてくる、と思っているようだ。自動車工場、シベリアの石油や森林開発、サハリンのガス・石油開発と色々やってくれている。ロシアの優先事項は経済の近代化であり、これに役立つ提案があれば、IT、省エネ、経営ノウハウなど前向きに検討する。次にどんなメニューが出てくるか楽しみである。ロシアには「食欲は、食べるほどに増す」という諺がある。日本は「お人好し」で、自分が親切にすれば相手もそれに応えてくれると信じている。しかし、強い国は、日本のいう「法と正義の原則」を都合の悪い時には無視する。それが国際政治の世界である。
ロシアの内心がこのようなものであれば、現在日本がなすべきことは、早急に政界、官界(特に外務省、経産省、防衛省)、業界、学界、地元が知恵を結集して、大局的・長期的な国益の観点からこの問題解決に関する国民の合意を形成することである。わが方に適した時期を見計らうことも大切であるので、足元が固まらないままに拙速で特定政党や特定個人が、その成果を得ようと交渉を開始することは避けなければならない。
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