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2010-12-17 00:00
(連載)忍び寄る米帝国の衰退と日本の選択(1)
吉田 重信
中国研究家
20世紀の世界を政治、経済、軍事的に支配してきた米帝国が衰退への道を歩む兆候が次第にあらわになりはじめている。米国の経済は予想を超える苦境に直面しており、ここ数年来国防費を削減し続けている。米国は、数十年つづいた「世界の警察官」として自国に都合のよい「世界の秩序と平和」を取り仕切る「一極覇権主義」を、多国間協調体制のもとに「地域の安定」をはかる政策に切り替えつつあるようだ。最近の、NATOにロシアを参画させるという動きにも、米国の意図を読み取ることができる。今や世界情勢は、かつてのローマ帝国が盛りを過ぎたころのそれに類似してきているようにさえみえる。
米国における黒人大統領オバマの出現こそは、2世紀末のローマ帝国におけるリビア生まれの皇帝(現地住民の血を引くとの説もある)セプティミウス・セヴェルスの出現を想起させる。多くの西洋史家によれば、セヴェルス皇帝は、疲弊し、混乱したローマ帝国体制の立て直しを期待さられたが、ローマ帝国の軍事的体制の一時的立て直しには寄与したものの、結局は帝国衰退の歴史的潮流を食い止めることはできなかった。
ローマ帝国の崩壊過程では、ローマ帝国が東西に二分され、世界は多極化の一途をたどった。西では、ゲルマン系諸国の勃興がみられ、東では8世紀以降イスラム勢力の台頭があった。アメリカ帝国への対抗勢力として、近年東では中国の台頭があり、西ではイラクに続いてのイランをはじめとするイスラム勢力の再台頭がある。現在われわれが目撃しているこの構図は、まさにローマ帝国末期の帝国衰退の構図と同じ構図であるようにみえる。これは、「文明の衝突」を説いたハンチントン教授がいちはやく予測したとおりである。
ただし、アジア太平洋情勢においては、米国は、中国の台頭や北朝鮮の悪あがきに対する警戒心から、日本や韓国などをはじめとするアジア諸国との連携を強化することによって、事態に対応しようとする動きがみられる。しかし、これは一時的な対応であり、米国が最終的に描くのは、アジア太平洋地域における多国参加型の「平和と安定」の構図のようである。このような歴史の一大転換期において、60年余の長きにわたって米国の従属国でありつづけた日本は、いかなる方向を目指すべきかが、民族と国家の存亡にかかわる最大の課題として問われている。(つづく)
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