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2010-12-21 00:00
(連載)ウィキリークス問題で考えること(2)
水口 章
敬愛大学国際学部准教授
(3)については、ウィキリークスと提携して機密情報の公開を進めた欧米メディアの報道ぶりが気になる。この提携を提案したのは英紙『ガーディアン』の特約記者ニック・デービス氏だと報じられている。同氏によると、一般公開前に情報資料を報道することで、機密文書公開の効果を挙げることができることや、政治的圧力、逮捕の危険も減ると説得したという。こうして『ガーディアン』紙を中心に『ニューヨーク・タイムズ』紙、ドイツの『シュピーゲル』誌という合同チームを結成、その後10月にはフランスの『ルモンド』紙、11月にはスペインの『エスパイス』紙が加わり、事前報道が行われた。デービス氏は、この合同チームで機密情報を精査したと述べている。
彼らは、どのような基準で、安全保障にかかわるものや、関係国の外交任務に支障をきたす情報資料を公表すべきと判断したのだろうか。何よりも、政府の不正を暴くような報道が見受けられない点が不思議である。また、選択され、マスメディアで報じられた情報内容から、欧米メディアの「偏見」が見て取れるように思うのは、私だけだろうか。「表現の自由」とはそのようなものだろうか。
(4)について代表的な事例は、アフガニスタンのサヘルワン財務相がウィキリークスで公開された情報資料で、カルザイ大統領を批判していたことがわかり、辞意を表明したことだろう。今回の情報公開に関しては、内容の重要度にもよるが、情報化が進んだ成熟国家では大きな政治的トラブルになることはないだろう。しかし、アフガニスタンの例に見るように、国民の受容力、寛容力が弱い社会的特性がある国、口コミ情報を信じやすい国民性がある国では、政治不安を招きかねない。
情報公開をする人々は、今日の世界に、自分たちが暮らしているのと同質の社会空間が広がっていると誤認しているのではないだろうか。米国は、外交実務においてダメージを受けたが、それ以上に公文書に書かれた対象国の中に、政治的に大きなダメージを受けているところもある。そのことが国際政治にどのような影響を与えるのかというリスクを、今回の公開に携わったメディア・チームは、どう認識しているのだろうか。世界の秩序や安定、安全性に対する責任は、メディアにはないのだろうか。今回の外交公文書漏洩事件を通じ、外交官はスパイ行為に近いこともするが、人間関係の構築に努力している姿も見えてくる。われわれ一人一人は、それらの行為が、「誰のために、どのような意図をもってなされているのか」について熟考し、公論する必要があるのではないだろうか。(おわり)
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