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2010-12-23 00:00
求められるグローバル経営のための経営学
河東 哲夫
元外交官
これまでは企業の国際化、グローバル経営と言っても、本社は日本にあって、経営陣は日本人だけ、せいぜい海外の支社の上部に「現地人スタッフ」を数名昇進させるかどうか、という「上からの目線」、「日本からの目線」での話だった。どこか余裕のある話だったが、今起きつつあることは、そんな余裕をどこかに吹っ飛ばす話だ。自分の立場がなくなる話、つまり日本企業の本社が海外に移転してしまうかもしれない話だからだ。目線のグローバル化を越えて「日本が上からの目線で眺められる」可能性だ。
既に企業によっては、本社機能をどんどん外国に移転させ、「外国人」を正社員として、あるいは日本人社員をはるかに上回る高給を取る特別技能社員として、特に金融会社などで、いやそれどころかソニーや日産の場合にはCEOとして遇し始めている。そこでは企業が日本人の手から離れつつあり、ブランドを頭上にいただく「多人種の利益集団」になる方向を示している。日本を離れたくない者、外国語ができない者は日本に残るが、彼らにはやりがいのある仕事はまわってこない。今や外資化してしまった「昔の日本企業」の日本支社で、中国で作られたその社の製品を日本で売りさばく、営業とPRの仕事しか残るまい。
日本では、企業が社会保障の負担を押し付けられ過ぎている。終身雇用がそうだし、年金基金の負担も大きい。その上、法人税が世界一高いときては、企業も本社を海外に移したくなるだろう。このような時代には、「カンバン方式」や「提案」制など、製造業用の経営学に加えて、世界を舞台にした場合本社をどの国に置くか、それは生産量が最も大きい国であるべきなのか、発祥の国に残ることがやはりベストなのか、支社をどのように運営するか、それらの間の人事政策は?--などのをケースを積み重ねつつ、理論化していく必要がある。もっとも、事態がそこまで急速に進むとは、僕も半信半疑なのだ。経営陣自身が英語を話せ、家族も海外に永住することを厭わない――という条件が必要になるうえに、これからの大市場であるBRICsに本社を移そうとしても、現地の地場ライバル企業が陰に陽に抵抗するだろう。
それに、物事にとらわれないアメリカの企業でさえ、本社を海外に移した例は少ないことをちゃんと心得ておくべきだ。GMのように、今や中国での生産台数の方が大きくなってしまった企業においてすらである。だから、日本の場合、オランダやスイスのように、国内に小さな市場しか持たないのに、フィリップスやABBのような世界的大企業がどうして本社を置いているのか、どのような条件があるから大企業が残っているのか、よく調べてみる必要がある。幹部が英語ができないから絶対に海外流出しないだろうと高をくくっているうちに、通訳をつけてでも、彼らは海外に逃避してしまうかもしれないからだ。
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