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2010-12-23 00:00
岐路に立つ中国の大国主義
松井 啓
元駐カザフスタン大使
最近の中国の動きを見ていると、日本の「近代化」をなぞっているように思われる。日本は1868年の明治維新後、英仏等の帝国主義諸国との競争に遅れて参加したため、「富国強兵」の下に国家資本による基幹産業の育成と陸海軍の強化を図り、一般大衆は貧困に喘いでいたが、高揚したナショナリズムは国策を支持した。1895年には日清戦争の戦果である台湾を三国干渉により断念するや、「臥薪嘗胆」の下に更に軍備増強を図り、10年後には日露戦争に勝利し、1910年には韓国を併合した。明治維新からわずか42年後のことであった。
日本はその間海軍力増強に邁進し、ワシントン海軍軍縮条約では主力艦保有トン数について米英各5に対し日本3の比率を獲得し、第一次世界大戦後成立した国際連盟では常任理事国の座を獲得した。しかしながら、満州国設立を国際連盟で非難されるや、1933年には脱退し、1941年には仏領インドシナへ侵攻し、ついに太平洋戦争に突入した。1945年に敗北するに至ったのは、明治維新から77年後であった。日本はその後1956年に国際連合への加盟を果たし、経済発展に専念し、明治維新100周年の1968年にはGNP世界第2位の経済大国となった。中国にとっては、第二次世界大終了までの時期は列強から蚕食され続け、特に朝貢関係にあった日本が明治維新後わずか50年ほどの間に中国における種々の権益を獲得し、国際連盟の常任理事国となるに至ったことは、大いなる屈辱であったであろう。
中華人民共和国は1949年に成立したが、国際連合で台湾(中華民国)と議席を交代したのは、1971年になってからであった。資源もないかつての「小国日本」が短期間で近代化を成し遂げ、国際社会に勃興し得たことが、「偉大な漢民族」にできないことはないと考えても不思議ではない。中国は、近年国家資本主義による毎年10%前後の経済成長を続け「世界の工場」から「世界の市場」へと変貌を遂げつつあり、GNPでは本年日本を抜いて世界第2位となった。更に中国は、軍事予算を毎年二桁で延ばし、海軍の増強、更には宇宙ロケットの開発を強力に推進して、国際的発言力の強化に努めている。他方、共産党一党支配により言論を統制し、多民族国家の統一維持のためナショナリズムを扇動しており、長期的にはアジアにおける覇権の確立だけでなく、国際社会全体においてアメリカと拮抗できる強大国となることを目指しているようにみえる。
中国は今のところ自国が「急成長した我儘放題の肥満児」と見られているとの自覚がなく、ひたすら自己利益の追求に走っている。ハードパワーを見せつけることによって、既存の秩序に挑戦し、また言論の自由を抑圧していることによって、アジア周辺諸国の懸念を呼び起こし、国際社会の反発を招いている。しかしながら、中国の一方的自己主張や単独行動が続けば、貿易・金融・軍事等あらゆる面で国際関係の安定を揺るがすような事態を招くことになりかねない。中国が、戦前の日本軍国主義の暴走やソ連共産党独裁体制の崩壊から教訓を学び、帝国主義の時代とは異なるグローバル化した現在の国際社会に相応しい行動をとることを望みたい。現代の国際社会は種々相互依存関係が多角的に重層化しているので、中国が大国を目指すのなら、なおさらのこと国際ルールを尊重し、経済・安全保障等の種々国際的枠組みに参加し、地球規模の諸問題の解決に向かって責任ある行動を取り、国際社会の信頼を得ることが必要なはずである。
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