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2011-01-05 00:00
阿修羅政局が幕を開けた
杉浦 正章
政治評論家
インド信仰上の魔族を阿修羅という。日常争いを好み、事実を曲げ、偽って他人の悪口を言い合う。その争いの絶えない世界を阿修羅道という。まさに日本の政界は阿修羅道に落ちた。新年早々から「人間以下の世界」とされる阿修羅のごとき政争が始まる。まず口火を切った首相・菅直人が「政治とカネ」で小沢一郎に牙をむいた。小沢一郎は菅に「自分の頭のハエを追え」と言わんばかりに吠え返した。固唾をのんで見守る野党は、ハイエナのように隙あらばと、解散か内閣総辞職を狙う。果てしない争いに、激動の世界情勢、待ったなしの財政再建はかすみ、あるべき政治の展望は開けない。
政局は、まず読める範囲から読んでゆくのが基本だ。今後の激動の荒波は、3波にわたって政権を襲うだろう。第1波は通常国会前。第2波は来年度予算審議、第3波は3月中下旬の予算審議最終段階だ。菅が4日の記者会見で明らかにした方針から読めば、どうやら菅は通常国会入り口までの態勢は整えたつもりなのだろう。「小沢切り」を鮮明にさせて、内閣改造の方針を明示したのは、そういうことだ。小沢の「出処進退」に言及したのは、民主党離党か、場合によっては議員辞職も含めた対応へと追い込もうとしているからに他ならない。小沢シンパが黙っているわけがないが、世論を追い風に突っぱねられると読んだのだろう。
次に、内閣改造で官房長官・仙谷由人を切るかどうかだが、朝日新聞の編集委員・星浩が年末恒例の同紙政局座談会で「仙谷氏は残すのではないか。交代は政治的敗北と受け止められる」と述べたのには驚いた。それでは何のために改造をするのか。菅は問責決議可決で野党が審議拒否をするから改造するのであって、それ以外の意味はないはずだ。仙石を官房長官から外し、ほかのポストで優遇してこそ成り立つ“政治”の局面なのではないか。朝日は1月5日付の社説でも「本気ならば応援しよう」と菅支援の方向を打ち出しているが、せっかく実現させた民主党政権を失いたくないのだろうか。そこには個利個略ならぬ“紙利紙略”が見られる。しかし、官房長官は交代の方向だろう。一方、菅が本当に小沢を切れるかどうかは別だが、「切るというアリバイ」と改造で、月末の通常国会審議入りのパスポートを獲得できると踏んでいるのだろう。小沢は、少なくとも政治倫理審査会出席への確約を拒みにくくなったことは確かだ。その場合、野党もこれ以上を望むのは高望みであり、無理強いをすれば、世論の批判は確定的に野党に向かう。
通常国会冒頭政局が回避の方向となれば、第2波は予算委審議だ。野党に追及材料は事欠かない。民主党政権は重要なる内憂外患への対応を、これまでことごとくと言って良いほど間違ってきた。それも、中国船船長釈放にみられる虚偽の政治が加わって、国民の信用度は地に落ちた。加えて、危機的状態の財政再建に消費税導入で取り組むべき緊急時に、民主党政権は政権を取れば16兆8000億のカネが転がり込むという幻想を提示して、1年半の“財政空白”を作った。菅は記者会見で、消費増税を巡る与野党協議を6月に先送りする方針を明らかにしたが、これでは空白は2年となる。今回も、欺瞞のマニフェストを維持しつつ、2011年度予算を編成した。2年連続で借金が税収を上回る予算である。本来はマニフェストを撤回すべきなのだが、マニフェストで衆院308議席を獲得した以上、撤回すれば解散に直結せざるを得ないからできないのだ。豊富な追及材料は、菅政権をカンボジアの地雷原に置くようなものだ。あちこちで爆発が生じ、終いには政権直撃型爆発もあり得ると見なければなるまい。
そして野党が正念場として狙いをつけるのは、第3波の3月末の予算成立の土壇場政局だ。この作戦は野党にも非難がはね返る“両刃の剣作戦”だが、最終的に追い込むには、参院で多数を統合して予算関連法案を否決するか、成立を遅らせるなどの対応で、政権を揺さぶるしかあるまい。さらに機会を捉えて、首相問責決議案を可決させる。いくら憲法上参院の権限が制約されているとはいえ、首相問責決議が可決されれば、参院は動かなくなる。菅は「やぶれかぶれ解散」か、予算と引き替えに総辞職せざるを得なくなる。自民党総裁・谷垣禎一が4日「全力を挙げて与党を追い込み、解散を勝ち取ることが今年の目標だ」と述べているが、まず最終決戦の照準は3月末に合わせているに違いない。
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