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2011-01-15 00:00
注目すべきロシアの兵器調達予算急増の動き
河東 哲夫
外務省OB
日本や欧米の新聞雑誌ではほとんど話題になっていないが、ロシアの公開情報 を見ていると 、昨年夏あたりから軍部が兵器調達予算の急増(2020年までの10年計画として)を求め、最終決定が間近であるようだ。10年間で約20兆ルーブル(6550億ドル)という軍部の要求がそのまま通れば、それは兵器調達予算が70%も増加する(兵器調達は国防予算全体の半分弱なので、国防予算は30%以上伸びる)ことを意味する。そうなれば国防予算はロシアGDPの5%強にもなるだろう。GDPで中国の約4分の1しかないのに、国防費は中国とほぼ同じということになり、経済のソ連化(軍需依存)が強まることになる。
ロシア軍装備の老朽化・陳腐化は甚だしい。2008年グルジア戦争においては、ロシア軍将校たちは友軍との連絡で商用携帯電話を用いざるを得ない有様だった。太平洋艦隊は、巡洋艦と駆逐艦を合わせても10隻以下で、もはや意味のある戦力を有しない。そして致命的なのは、無人兵器、精密誘導兵器、司令部と戦場の間で情報・司令のやりとりをするC3システムなどの開発・配備において、米国との間の格差が致命的と言っていいほど開いてしまったことである。追いつくのは難しい。ソ連崩壊後の20年間、国防産業に資金が回らなかったために、技術者の流出と老齢化が著しい。潜水艦搭載新型戦略ミサイル「ブラーヴァ」などは、10回ほどの実験のうち成功したのは3回ほどである。そして今や年間インフレ率が10%に近付きつつあるため、少々予算を増やしても「真水」の部分は小さくなるのだ。
にもかかわらず、ロシアの兵器調達予算増加の動きには注視していく必要がある。1987年、米ソは射程500~5500kmの「中距離核ミサイル」(INF)を全廃する合意を行ったが、そのためにロシアは中国、北朝鮮、イラン等が保有するミサイルに対する抑止手段を持てないでいる。しかるに現在ロシアが開発中である新型対空ミサイルS-500は射程が600kmであり、これを地上の目標に対して用いれば「INFの復活」となる。これが極東に配備されれば、その主要ターゲットは中国であるとしても、日本をたたくことも可能である。また昨年12月ロシアがフランスと成約した「Mistral」級強襲揚陸艦2隻の輸入が実現すれば、うち1隻は太平洋艦隊に配備される可能性がある。
現在オバマ政権は、NATOを性急に拡大するなどして、ロシアの神経を逆なでしたブッシュ政権の対ロ政策をあらため、当面ロシアに自分の政策を邪魔させないことに主眼を置いた「Reset」政策を追求している。特にアフガニスタンから軍を引き揚げる場合、ロシア領を通過することは必須なので、ロシアとの関係では少々のことには目をつぶっている。西欧諸国は冷戦でロシアからの脅威は消滅したと思い込み、国防予算を削減し、ロシアとは協調を旨とする政策を実行している。これが、欧米マスコミがロシアの兵器調達予算急増の動きに鈍感な理由である。あるいは、見て見ぬふりをしている背景である。つまり、日本だけが騒いでも、貧乏くじを引く問題なのだが、専門家レベルでは国際セミナーなどを開催して、国際的な認識をすり合わせて行くべきだ。
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