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2011-01-21 00:00
中国に対する米国の「核の傘」は万全か?
河東 哲夫
元外交官
「アメリカという国は、国論があっちの極端からこっちの極端へと短期の間にぶれ、いつかはバランスの取れた見方に収れんするのだ」と、彼らは誇らしげに言うのだが、振り子が揺れているあいだ、それにぶつかって死んでしまう者もまた数多い。ワシントンでは、米国と中国だけで世界を差配していくのだといわんばかりのG2議論がはばをきかせていたと思ったら、早や今では、中国脅威論一色の様相。そして今日出たあるセミナーでもアメリカ人の専門家が、「日本、頼むよな。アジアではお前がいなかったら、アメリカはどうしようもない」とはっきり言った。そう言われて悪い気はしないのだが、よく考えてみると、上空の核の傘はずいぶんスケスケになっている。つまり、中国は日本に向けて撃てる核ミサイルを数十発も持っているのに対して、それを中和(抑止)して、中国が日本を脅迫する手段にできないようにするべき米軍の核は、はなはだ心もとない状況にあるということだ。
どういうことかと言うと、中国の保有するミサイルは米国まで届くもの(戦略ミサイル)と、もっと短い射程のものに分かれている。日本とか、ロシアとか、インドを狙う場合には、後者を使う。「なに、米国まで届くものなら、日本にも簡単に届くだろう、それを使えばいいじゃないか」と思われるかもしれないが、そのテの戦略ミサイルは、四六時中空からアメリカの衛星が見張っていて、「発射!」ということになれば、ホワイトハウスで緊急会議、直ちに米国から反撃のミサイルが飛び立ちかねない。だから「戦略ミサイル」というのは、滅多なことでは撃ちあげられない。日本やインドを脅かすには、いわゆる「中距離ミサイル」というのを別に配備する必要があり、中国はそれを数十基と持っている。
たとえば、尖閣をめぐって日中の間で軍艦のにらみ合いが起きたとする。または他の紛争でもいい。その時中国が「自分は核ミサイルを持っているんだけど」とつぶやくだけで、日本の政治家は萎びてしまうのだ。その時、米国が「撃ってみろ。お前のは洋上で撃ち落とす代わりに、こちらからも同じ数の核を撃ってやるからな」と言えるか、言えないか、またそれが中国にどのくらい信憑性をもって響くかで、中国を抑止できるか、どうかが決まる。数年前までアジアの米軍はそのような核弾頭を多数持っていた。例えばグアムには、射程距離2500キロの核弾頭型トマホーク巡航ミサイルが数十発配備されていた、と往時の報道にはある。ところが、このトマホークはなぜか太平洋から姿を消したのだ。だから、米軍がアジアで使える核は、グアムのB-52爆撃機に搭載されたもの(撃墜されやすい)と原潜に搭載されたトライデント戦略核ミサイルの2種類だけになってしまった。前者は脆弱だし、後者は発射すれば、ロシアが自分を狙ったものと誤認して、米国に向けてミサイルを発射しかねない。
つまり、米国は「これからはアジアの時代だ」と言いながら、核の傘を虫食いにし、日本政府はそれを座視していたのだ。だから、米国が中国とスジの通った外交をやろうとするつもりなら、日本や韓国や台湾に対する核の傘をもう一度修理して、われわれが核による威嚇に簡単に屈しない状況を作ってほしい。問題は威嚇だけではない。中国は有事には、在日米軍基地も標的にするだろう。以上、中国を敵国あつかいして書いたが、それは万一の用心のため。大多数の中国人は、日本に対してそこまでの悪意は持っていないだろう。しかし、それでも「どうしようもない対立が起こらない」という保証はない。だから、日本や他の国は、有事の際の身の処し方を考えておかなければならない。中国には、用心と協力の二段構えで進むべきである。国際関係では、脳天気な友情は身の破滅を招く。
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