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2011-02-01 00:00
裁判長期化と選挙で小沢支持勢力消滅の危機
杉浦 正章
政治評論家
強制起訴で浮かび上がった構図は、「辞職も、離党もない」とほくそ笑んでいる小沢一郎と、対照的に苦悩を深める首相・菅直人の姿だ。小沢の巧妙なる布石で攻守が逆転したかのようにも見える。しかし、これは短視眼的な見方であり、戦略眼的に見れば小沢の笑顔はそのまま凍り付くことが、やがて分かるだろう。強制起訴は「政治とカネ」に象徴される小沢的な政治の否定そのものであり、「有罪か、無罪か」にかかわらず、その目的は達成されようとしているからである。こんご“脱小沢”どころか“嫌小沢”が政界に高まり、小沢は「悲しい老人」として、晩節を汚しつつ生きなければなるまい。小沢が高々と唱える理論武装を煎じ詰めれば、「検察の起訴なら権威があるが、有象無象の検察審議会の起訴など、起訴とは言えない」と言うところだろう。これを錦の御旗に、党内一定勢力の支持を取り付けている。確かに99%有罪の確率がなければ、有力政治家の起訴は控えるのが検察の従来からの方針であり、小沢は「嫌疑不十分」で2度にわたり不起訴とされている。しかし、「嫌疑不十分」とは文字通り「嫌疑はあるが、十分ではなかった」のであり、小沢の主張するような「無実」と同じではない。
検察審は、80%の可能性でも、起訴して疑惑を晴らそうとしているのである。「疑わしきは罰せず」から「疑わしきは裁判へ」の流れが政界疑惑に適用され、今後定着するのだ。確かに、起訴の焦点である小沢が土地購入代金4億円を陸山会に貸し付け、2004年の政治資金収支報告書に記載しなかった経緯を「秘書独断」とは考えにくい。常識的には「共謀」と見る方が自然だ。背景では水谷建設からのヤミ献金が含まれている、と検察審がみているとしても無理はない。小沢の関与をいったん認めた秘書の証言もある。有罪か無罪かは5分5分と見るべきだろう。それでは、小沢が強制起訴されたことが政治的にどう波及するかだ。小沢は起訴により刑事被告人となったのであり、まず「無罪」となるまで首相に担ぐ破廉恥な党内勢力はなくなるだろう。党の主要なポストにも就けない。従来通り「政治とカネ」にものを言わせて一定の勢力は養うだろうが、勢力は減衰傾向をたどるだろう。とりわけ重要なポイントは、小沢の裁判戦術そのものに致命的な欠陥があることだ。秘書のそれから見ても、裁判は引き延ばし長期化を狙ったものになる。秘書は起訴以来1年たっても初公判が開かれていない。小沢は初公判までに1年以上、判決までにさらに1年以上、1審で合計3年くらいの長期化を狙っているものとみられる。
これが意味するものは、その間に確実に行われる解散・総選挙によって、小沢チルドレンや小沢で生きている側近らを喪失することである。裁判が長引くことは、民主党が常に「政治とカネ」を引きずることになり、選挙結果に(小沢の居座りを80%がネガティブとする)国民世論が反映されることは確実だ。チルドレンに至っては、バブルが弾けて90%の確率で落選すると見る。140人の小沢勢力はせいぜい20人か30人になるだろう。小沢は「裸の王様」になるのだ。そうかといって、かっての小沢のように党を飛び出して政界の再編に走れるかというと、野党の総スカンの中では、とても無理。そんな求心力は政界のどこを探してもない。この小沢の姿を遠望することができない菅以下政権幹部は、無責任きわまりない対応しかとれていない。正月4日の記者会見で菅は「小沢氏は出処進退を」と議員辞職を迫ったが、その迫力はなぜか消えた。そればかりか菅が「岡田君中心に協議」と逃げれば、幹事長・岡田克也は「本人が決めること」と小沢に転嫁する始末だ。
いくら予算成立のために小沢勢力が必要とはいえ、みっともなさが極まった。加えて、執行部は小沢の処分については、「除名」でも「離党勧告」でもなく、なんと最も軽い「党員資格の停止」を考えているのだという。これでは小沢には効果がない。党からの資金が停止されても「政治とカネ」の本家にはジャブジャブ集まる。総選挙での公認などは、岩手の選挙区が「小沢党」であり、必要もない。代表選への立候補資格の喪失など、元々狙わないから意味がない。要するに、執行部は「小沢切り」ができないということになる。この腰が引けた姿が、国民にどう映るか、支持率にどう反映するか、は言うまでもない。馬鹿な評論家が「小沢の力が落ちて、菅が俄然有利になる」などと論評しているが、とてもとてもその流れにはならない。むしろ“抱き合い心中”的な流れだ。こうみてくると、検察審による小沢の起訴が、投げかけたものは、小沢の紛れもない凋落であり、その小沢に「負んぶお化け」のように取り憑かれた民主党の長期低落であろう。逆に、野党はまたまた政権追求の“珠玉”を得たことになる。証人喚問は全会一致が原則で実現しにくいが、お経のように繰り返すだけで、霊験あらたかな効果がある。
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