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2011-02-11 00:00
TPPの理念は米国でなく、日本が主導せよ
宮崎 厚
ベンチャー企業顧問
2006年、太平洋を囲む4か国で始まったTPPの議論は、2国間の利害調整的なFTAやEPAと異なり、地球上各国のグローバル交流の在り方や原則にかかわるもので、そこには素晴らしい理念が含まれていると感じています。しかし、この半世紀に亘る、私の見た米国の外交スタイルでは、この理念はなかなか受け入れられないのではないか、と危惧しております。やはり、日本外交の出番ではないかと思っています。日本が出て行って、「工業製品、資源、農産物といった実物の例外のなき無関税交易」「人の自由な交流」「文化や伝統、生活様式など各国の無形財産の相互理解」など、各国間の相互関係性(相互依存性ではありません)をかけがえのないものに育ててゆく責任を果たしてほしい、と感じて仕方がありません。日本ならば出来るし、可能だと考えます。世界平和や国際親善を標榜する日本外交にとって、最適な課題と思っています。日本ならば立派なコーディネートができる気がして仕方がありません。外交の舞台で理想を追求できるテーマなど、そうやたらにはないと思います。TPPの理念と原則を各国間に打ち立てれば、数十年後の世界では、TPPに参加しない国は鎖国状態となり、その国は進化せず、ガラパゴス状態になるだけでしょう。
米国は、異文化との融合は苦手です。イスラム諸国との関係を見れば明らかです。かつての東西冷戦時代の対ソ政策や、昨今の対中対策などを見ても、自国に対抗しそうな相手に対しては、力を持って立ち向かう国だと思います。そして、米国は絶対に自国の国益や価値観を譲りません。最近は陰りが見えるといわれながらも、世界における米国の存在感やプレゼンスは大きく、必然的に米国が主導できない国際関係を嫌います。政治力学や軍事的なパワーバランスが求められる局面では、米国のやり方には理があると思われ、日本が代わりに登場して世界のパワーバランスを守れるとは思いません。しかし、TPPの協議を米国が主導すると、必ず対中牽制だとか、アジア太平洋圏諸国の米国離れを警戒するとか、米国流儀の利害得失が絡んできて、「有利だ」「不利だ」「参加条件をどうする、こうする」という話になりかねません。TPPに入れたい国、入れたくない国などが出てきます。
世界各国の政治形態や国民性などが、互いにどんなに異なっていようとも、とにかく外国との経済・文化の交流に関わる限り、国際間においてTPPの明確な理念と原則を定め、世界各国の相互関係性を深めるシステムを構築したいものです。太古のシルクロードの中心であったサマルカンドは、ユーラシア大陸の東西文化の交流点として栄え、アジアとヨーロッパが共に影響し合って、発展出来たように、異文化にある人々の草の根的な相互理解が深まり、互いに影響しあい、どこの国も問題解決を戦争や武力に頼る必要のない仕組みを作りたいものです。しかし、歴史上、ヨーロッパを含め、多国間の商業・文化の交流でで栄えた都市は、大抵そのメリットを取ろうとする周辺の大国に攻め滅ぼされてしまいました。しかし、現代のTPPは、環太平洋を舞台にした各国間の繋がりであり、どこかの大国が統治権を持とうとしても、持つことのできない広さと抽象性を持ち、各国の相互関係性そのものとして生み出されるでしょう。したがって、これを米国のような大国が主導することには懸念があるのです。
日本が発起人の各国と協力してTPPの理念を打ち立て、土台を築いた後、米国を誘って参加してもらうのがベストではないでしょうか。古くは帰化人との「和漢混交」を、明治以降は欧米との「和洋折衷」を、第二次大戦後は「米国流民主主義」を、日本人は受け入れてきました。日本人の柔軟性と異文化融合能力を、世界の相互関係性を深めるために伝えたいものだと思います。その意味で、いまこそ日本外交の出番が来ています。外交官の方々!TPPの理念は、前例も無く、これを形作るにはかなりの知恵と創意工夫が必要と思います。これまで日本が世界のルールを作った経験は乏しいので、難しい作業かもしれません。しかし、頑張ってほしいのです。
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