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2011-02-12 00:00
前原外相の訪ロの成果を高く評価する
伊藤 憲一
日本国際フォーラム理事長
前原誠司外相が、モスクワにおいてラブロフ外相との間で日ロ外相会談(2月11日)を行った。2009年8月に民主党に政権が移行して以降、首相や外相の発言や行動にはハラハラさせられるばかりであったが、今回初めて「よくぞ、日本の外相として、侮られることなく、日本の国益を守ってくれた」と安心もし、感心もした。外交においては、そして特にロシアのような必ずしも友好的とはいえない大国を相手にした外交においては、大局を洞察したうえで、細心の着手をしてゆくことが必要である。目先の相手の言動に一喜一憂し、結果的に相手の掌中で翻弄されるのは、最悪である。この点で、今回の前原訪ロは、日ロ関係の大局を腹中に収めて、今の段階における最善の手を打ったものだった、と高く評価したい。
日ロ関係の大局を見れば、その最大の問題は、1945年8~9月の旧ソ連の一方的軍事行動によって日本の領土が占拠され、その後始末(平和条約)がつけられないまま今日にいたっている、という事実であろう。今日のロシアによる北方領土の支配は、力(それも軍事力)のみを根拠とした支配であって、その根拠はきわめて薄弱である。前原外相が「要人が何人、誰が行こうが、軍事的なプレゼンスを強めようが、日本の固有の領土であるという法的評価が変わるものでは全くない」と言いきったのは、この日ロ関係の大局を抑えており、至当である。ロシアの北方領土占拠は、大西洋憲章、カイロ宣言、国際連合憲章などの今日の国際関係の基本原則が定める領土不拡大原則に違反した支配であるがゆえに、「不法占拠」なのである。菅首相はメドヴェージェフ大統領の北方領土訪問を「許しがたい暴挙」と指摘したが、前原外相がこの管発言を「国民の声を代表するものだ」と擁護したのは、まったく適切なことであった。
「このままでは、4島はおろか、2島も返ってこない」などと騒ぎ立てる日本人がいるが、この問題は「4島か、2島か」というような利害計算の対象となる問題ではない。この問題の本質は、国際社会における日本の主権、独立、尊厳を問う問題である。たとえ2島を得たとしても、ロシアが他の2島を支配するのを許すならば、それは相手の「不法」への屈服を意味することになる。それくらいならば、日本は、ロシアが4島において醜悪な力の支配を継続するのを、冷やかに眺めつづけるべきであろう。憲法9条によって「国際紛争解決の手段としての武力の行使を放棄」した日本としては、その主権、独立、尊厳を守るためには、このくらいの受忍あるいは犠牲のコストは払わなければなるまい。国民もまたそのような覚悟を厭わないものと信ずる。
また、「プーチンやメドヴェージェフが相手では、4島はとても無理だから、こちらから3島、2島の可能性を打診しよう」などと主張する日本人もいる。この手のひとは、相手が変わるたびに相手にあわせて、そしてその相手の言い方が変われば、これまたそのたびに、その新しい言い方にあわせて、「何と言えば(ロシアから)褒めてもらえるか」という発想でしか、日ロ関係を考えない。しかし、自己の原則を捨てて、解決する問題はない。プーチンやメドヴェージェフはやがて権力の舞台を去るであろう。ソ連時代のソ連は領土問題そのものの存在すら認めなかった。そしてそれは永遠につづくかのように思われた。しかし、1991年に来日したゴルバチョフは日ソ共同声明のなかで4島の名前に言及し、1993年に来日したエリツィンは東京宣言のなかで「法と正義の原則」による領土問題の解決を約束した。1998年の橋本総理の川奈提案は結実しなかったとはいえ、そのような大きな歴史のうねりを踏まえた日本側からの提案であった。いまのプーチンやメドヴェージェフは交渉を急ぐべき相手ではない。動くときは風のように、しかし動かざるときは山のように。その区別は、大局を踏まえなければ分からない。いまは動くべきときにあらず。
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