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2011-02-13 00:00
ASEAN取り込みを急ぐ中印
鍋嶋 敬三
評論家
2011年初頭のアジアの大きな動きは、東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国の外相会議とインドネシア大統領のインド訪問である。太平洋からインド洋にまたがるASEAN10カ国の取り込みを急ぐ中国とインドの姿が浮き彫りになった。日本にとっては中国の台頭に対するバランサーとしてのインド、ASEANの大国であるインドネシアという地域パワーとの関係強化は、二国間の枠組みを超えて、アジアの新しい国際秩序形成の力学という観点から、重要性が一層増してきた。1月下旬、ASEANの外相たちはタイ北部からメコン川を渡りラオスを経て中国南部まで1000㌔を移動したが、この一日がかりの旅は、20周年を迎えた中国との関係強化を強く印象付けるものとなった。メコン川に中国とタイが費用を折半する橋が掛かれば、シンガポールからマレー半島を縦断して中国に至る道路網が完成する。中国にとって物資やヒトの交流を通じてインドシナ半島への影響力を増大させ、インド洋への出口を確保することになるわけで、その戦略的メリットは計り知れない。
2010年1月発効した自由貿易協定(FTA)で中国の輸出は30%以上伸び、ASEANにとって最大の貿易相手国になった。南シナ海の領土紛争について中国側は会議で「建設的口調」だったとされる。しかし、南シナ海の平和的行動規範(2002年)に法的拘束力を持たせることを中国は拒否しており、台湾やチベットと同様に南シナ海での主権をいかなる犠牲を払ってでも守る「核心的利益」とする立場を放棄したわけではない。この外相会議の直後にインドは、インドネシアのユドヨノ大統領を大々的な厚遇ぶりで迎えた。国連安全保障理事会の常任理事国(米中露英仏)首脳が昨年、相次いでインドを訪問。オバマ米大統領は東アジアでの一層大きな役割に期待を表明し、インドの常任理事国入りを初めて支持した。台頭する中国へのけん制である。
そのインドがASEANとの連携強化に乗り出した。インドネシアはASEAN議長国であり、10月にはインドも加わる東アジア首脳会議(EAS)を主催する立場だ。印イ首脳会談では2015年までに貿易額を倍増する合意のほか、包括的経済協力協定の交渉開始も発表された。インドは安保理非常任理事国に総会で満票近い支持を受けて当選し、外交的な自信を深めている。インドと中国は昨年12月の首相会談で貿易拡大では一致したものの、懸案の国境問題は棚上げし、政治的な緊張が続く。インドがインドネシアと連携を強めているのは中国をにらんでのことでもある。インドネシアは世界最大のイスラム国家であり、民主化が進むASEANの中軸国である。ともにG20の一員である両国の連携強化は米国にとっても歓迎すべき情勢だ。
日本は昨年10月、インドとの首脳会談で「戦略的グローバル・パートナーシップ」の拡大強化を確認し、経済連携協定(EPA)の締結で正式に合意、レアアース(希土類)の開発協力、原子力協定の早期締結でも一致、関係が進展しつつある。伝統的に協力関係があるインドネシアに対しても前原誠司外相が1月、ワシントンでの外交演説で、EASの拡充・強化のため安全保障分野も視野に入れて、今年の主催国であるインドネシアの役割に期待を表明した。2月初めのタイ、カンボジア国境の武力衝突でインドネシアのマルティ外相はシャトル外交を展開、ASEAN議長国として国連安保理を舞台に仲介役を果たしており、2月22日にはASEAN緊急外相会議を招集したと伝えられる(バンコク紙)。これまで控えめだったインドネシアが今後国際舞台で大きな役割を果たす試金石になるだろう。
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