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2011-02-28 00:00
北方領土問題を考えるもう一つの視点
松井 啓
無職(元駐カザフスタン大使)
日露間の北方領土問題はこの10年間でその性質が変わってきた、と見るべきであろう。この領土問題には、政教分離論、車の両輪論、領土返還と対露経済開発・経済近代化協力の見返りなど、時代により色々な意見があったが、現在は、単なる二国間の領土問題(国境画定問題)から米露中3国間の海洋戦略問題の色彩が強くなっていると思われる。
その底流にあるのが、中国の経済的・軍事的台頭である。経済発展を遂げた中国は、昨年日本をGDPで超え、益々存在感を増してきている。ナショナリズムの高揚もあり、究極的には国際社会において「中華」になることを指向しており、冷戦時代ソ連が米国と覇権を争った構図に似通ってきている。経済の次は、軍事である。かつて日本が「富国強兵」のスローガンの下に国民が空腹に耐えながら海洋軍事力を高め、1922年ワシントン海軍軍備制限条約で主力艦保有量を米英各5に対し3の比率を獲得しことは、中国にとって「良いお手本」である。中国は、北太平洋における自国の制海領域拡大を目指して海軍力を増強し、戦略的に重要な位置にある尖閣列島の奪取を決断したようである。
ロシアと中国との関係は、表面上は両国間の国境画定により安定しているように見えるが、中央アジア諸国を含む上海協力機構(SCO)のエッセンスは、反政府勢力封じ込めのための協力であって、経済面・軍事面での協力等はうたい文句でしかない。ロシアにとっては、中国の極東及び北太平洋における勢力増強は大いなる脅威である。北方領土は、そのような中国の威嚇なしにロシア太平洋艦隊が北太平洋に出入できることを保障する重要な位置にある。従ってこの拠点を自国領として確保しておくことは、ロシア海軍にとって死活的に重要である。
更に、ロシアは、来年に政権交代の時期を控え、国内的には軍部に対しても国民に対しても対外関係、特に日本に対して軟弱な態度を示すことができない状況にある。日本は、ここ1、2年は拙速に動くのを控え、日本の戦略的位置を見極めつつ、この問題解決のための日本国内での合意を形成する必要がある。その間に、海洋国家日本の海軍の抜本的増強がまず必要である。同時に、同盟国であり、日本以上に中国海軍の拡充を恐れている米国の参加を得て、北太平洋での「安全で自由な航行」について、日米露間で合意を形成することを提案してはどうだろうか。勿論その交渉には、敢えて中国、韓国、北朝鮮は参加させない。この点に関して軍事専門家の御意見をお聞きしたい。
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