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2011-03-03 00:00
政治の“大状況”を突いた、胸のすく産経の「主張」
杉浦 正章
政治評論家
朝日、毎日、読売の3大全国紙の社説は、床の間の天井と同じで誰も見ないが、世論の動向には大きな影響力を持っている。テレビのコメンテーターがすぐに“活用”するのを見ても分かる。しかし、予算案の衆院通過に伴う社説が「修正による与野党妥協」の主張で一致したのには、恐れ入った。始めに見出しありきの観念論で、現実政治を見据えていない。問題の核心は、民主党政権が国民欺瞞(ぎまん)のばらまきマニフェストで政権の座についたことにあり、予算関連法案を修正すれば事は済むのかということだ。むしろ修正をするなら、首相・菅直人は責任をとって、退陣するか、解散・総選挙で国民の信を問うのが、憲政の常道ではないのか。社説子も、ありきたりのきれい事を言っている政治状況ではない。社説の見出しは「修正こそ民意に応える道」(朝日)「予算修正で歩み寄りを」(毎日)と修正協議推進を見出しに取り、読売だけが「関連法案を政争の具にするな」としているが、内容は修正による与野党歩み寄りを主張している。各紙とも「高み」に立っているようにみえるが、政治の核心を外している。「政権も悪いが、野党も悪い。妥協せよ」というのは、社説の陥りがちなワンパターンだ。
一致しているのが、子ども手当の修正だ。販売政策上も主張しなければ部数が減るという“部分”だ。朝日は「児童手当のように、豊かな世帯には支給しない仕組みにしてはどうか」、毎日は「所得制限以外は、自公政権時代の児童手当と実際にはそれほど差異が大きいわけではない。民主、公明両党を中心に接点を見いだすべき」、読売は「子ども手当などのバラマキ施策を見直せば、自民党も特例公債法案に反対しにくいはずだ」としている。ネックとなっている子ども手当を突破口にして、予算関連法案の妥協にこぎ着けよという主張だ。この子ども手当は、民主党マニフェストの一丁目一番地である。幹事長・岡田克也は子ども手当の所得制限について「当然、議論になり得る」と容認、公明党への誘い水を仕掛けている。しかし民主党はこれまで子ども手当に所得制限を課さない理由について、「子ども手当は少子化対策であり、親の所得で区別すべきではない」と主張してきており、岡田の姿勢は過去の主張をかなぐり捨てて、なりふり構わぬ野合を目指すものに他ならない。だいいち自公両党の主張は、マニフェストに基づく予算関連法案の撤回であり、一つの政策の妥協で済む話ではない。子ども手当、高速道路無料化、高校授業料の無償化、農業の戸別所得補償制度の「バラマキ4K」の撤回無くして、本予算の賛成はあり得ないことは、自民党の組み替え動議でも明白だ。
社説がいくら耳障りの良いことを主張しても、現実政治とかけ離れていては、机上の空論にすぎない。加えて、社説は“修正”という細部にこだわるあまりに“大状況”への視点が欠けている。とりわけ朝日は解散・総選挙への言及が一言もない。これはマニフェスト修正が解散・総選挙に論理的に直結する問題をはらんでいることから、あえて避けているとしか思えない。毎日は「衆院解散といった展開は避けるべきだ。仮に首相が交代しても、衆参ねじれの国会状況に変わりはない。鳩山由紀夫前首相に続いて2代にわたり首相が衆院選を経ず政権を投げ出すようでは、後を継ぐ政権の正統性すら問われよう」と主張している。しかし支持率10%台の政権こそが、国民によって拒絶反応を受けているのではないのか。有権者も時には判断を間違える。それを改めるのが民主主義の基本であるはずだ。現政権の正統性こそが問題なのであり、「後を継ぐ政権の正統性」うんぬんは民主的手続きで成立したなら全く問題は無く、愚論だ。
こうした中で、常日頃右寄りすぎて賛同できない社説を書く傾向がある産経だけは、今回はもっともな主張をしている。「すでに菅首相は統治責任を果たせなくなっている。しかも、民主党が一昨年夏に打ち出した政権公約(マニフェスト)も、看板の子ども手当の見直し検討に象徴されるように、首相自らが破綻を認めざるを得なくなっている」と指摘するとともに、「首相に残された選択肢は、政治責任をとって退陣するか、衆院解散・総選挙で信を問い直すかなどである。懸案を先送りして延命を図ろうなどという考えは、国益を損なうだけだ」と断定している。胸のすく主張であり、この場面の論調はこうでなければならない。そもそも予算関連法案が通らなくても、予算の執行は8月までは滞りなく行われる。つなぎ法案が成立すれば、なおさら問題は無い。関税定率法など国民生活に直結する法案だけ妥協すればよいのだ。ここは、2か月程度の政治空白を作っても、「予算の修正」でなく、「政治の修正」に取り組むべき大状況なのだ。総じて新聞の社説のレベルは落ちてきているというのが実感だ。今後は欧米のように説得力のある論調は「ネット評論」に移行するのではないか。発行部数やしがらみにとらわれず、週刊誌や月刊誌より早いブロガーが活躍する時代となろう。それには新聞出身の経験あるシニアが“隠居状態”から目覚めることが大切だ。
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