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2011-03-30 00:00
スリーマイル島事故では放射性廃棄物汚水の河川投棄の荒療治も
山田 禎介
国際問題ジャーナリスト
大手塾などなかった昔、「だれそれはもっと勉強しているぞ!」と親は近所に模範生を仕立て、子どもの勉学を叱咤することが多かった。いま福島第一原発大事故についてメディアが、「スリーマイル島の事故もチェルノブイリの事故も、いち早く原子炉冷却に成功したから、危機を脱した」と、比較する例を多く見るたびに、それを思い出す。東洋的「自戒の美風」の悪いケースだ。
1979年のスリーマイル島事故、1986年のチェルノブイリ事故と、福島第一原発事故について、並べて語るにはあまりに時間差、規模、情報格差がある。当時も核事故への恐怖感は一様に日本に伝わったが、多くの方が指摘するように、チェルノブイリ事故の場合は、原子炉爆発で論外の規模だった。発生時、ソ連は事故を極秘にし、スウェーデンからの情報で世界が騒ぎ始め、ようやく核事故と認めた。あの頃は、今回の福島第一原発事故のようにリアルタイムで情報が国内を駆け回ることはなかった。スリーマイル島事故の際、車で現場にいち早く駆けつけた読売ワシントン特派員は、15年ほど前に亡くなったと聞く。当時の現場を生で知るジャーナリストも、いまや数少ない。
かく言う私自身は、スリーマイル島事故当時は、新聞社国際報道の新米記者だった。米通信社のチッカーから刻々「トイレットペーパー状」に流れ出る英文速報を、連日デスクからチェックさせられた。当時を思い出すのも精一杯だが、それでも「米原子力規制委がスリーマイル島事故で、大量の放射性廃棄物である何万ガロンもの汚水をサスケハナ川に投棄することを認め、それは実行された」というニュースは忘れない。スリーマイル島原発は、こうして炉の冷却と放射性廃棄物汚水の河川放出を行い、難を逃れる荒療治をした。規制委は世論に押され、まもなく放出措置を取りやめる命令を出すなど、混乱ももちろんあった。
1990年代の終わりごろ、私もワシントン駐在経験をした。そのときスリーマイル原発の放射性廃棄物汚水を投棄したサスケハナ川の河口は、このワシントン至近のチェサピーク湾で、この首都と原発との距離はわずか100マイル(約160キロ)と知り、スリーマイル島事故荒療治の意図を実感した。一方、チェサピーク湾産の貝やカニは、ワシントンのレストランではシーフードとして有名なことも当分気になったが、公式には健康被害は皆無に近いとされていた。福島第一原発の事故は、東北関東大震災が直接の原因であることはともかく、決して満足、納得のいく収拾プロセスが進行中とは言い難いが、実にこの放射性汚水の完璧処理に、力と時間がかけられている。スリーマイルの収束例は、福島第一原発の教訓にはなり得ない。あのような荒療治は広大な国土の米国でしか存在しえないものだ。
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