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2011-04-27 00:00
発言や弁明の大半が論理破綻している菅首相
杉浦 正章
政治評論家
菅は、トップリーダーとしての自分の発言がどう受け止められているか、が分かっていない。4月26日の首相・菅直人の国会答弁をつぶさに聞いたが、民主党内や自公両党が「菅降ろし」に踏み切った理由が、分かった気がする。分析すればするほど、首相としての自覚よりも、政権追及型政治家であった野党当時のままの無責任さを露呈してしまっていることが分かる。追及する側は、はっきり言ってある程度の無責任さや言いっ放しが許容されるが、いったん首相になった以上は、その発言は千金の重みを持つことを理解していない。衆院予算委で最近の菅発言が問題となったが、自民党の額賀福志郎が取り上げたのは、筆者も昨日指摘した「大震災の時に私が総理大臣の立場にいたのは、ひとつの運命だ」と述べた問題だ。額賀が「思い上がった発言」と追及するのを首をかしげながら聞いていた菅は、「そんなつもりはない。大きな責任を感じているという意味で、運命という言葉を使った」と答えた。
しかし、誰が聞いても、「運命」発言は、レベルの低い官邸の主共通の「裸の王様的な増上慢」「自信過剰」を感ぜざるを得ない。広辞苑でも「運命」の定義を「人生は天の名によって支配されているという思想に基づく」としており、発言の根底には、まさに“天の配剤”意識がうかがわれる。福田赳夫の「福田再選は天の声」に通ずる思い上がりと受け取られてもおかしくない。4月26日付社説で「菅降ろし反対」に踏み切った朝日新聞ですら、同社説で「首相は『宿命』と語ったが、その政権への執念は自らの延命のためではなく、危機収束と被災地の復興に注ぎ込むものでなくてはならない」と批判している。もっとも、朝日ともあろうものが「運命」発言を「宿命」と大間違いしてはいけない。菅が自民党総裁・谷垣禎一に電話で大連立を呼びかけた際に、「あなたは私と責任を分かち合うつもりがないのか」と“イラ菅”を爆発させたことも、額賀は取り上げた。菅は「国民に対して政治家としての責任を分かち合ってもらえないかと述べた」とトーンダウンしたが、ご都合主義の言い訳だ。電話のそばにいた幹事長・石原伸晃にまで聞こえて、メモに取られた言葉である。
統一地方選挙大敗の原因について、菅は「震災対策が悪いから負けたという批判があるが違う。しっかりやってきている」と答えたが、これも違う。朝日の世論調査では、東日本大震災への菅内閣の対応を「評価する」と答えた人は22%にとどまり、「評価しない」が60%に上ったとされている。福島第一原発事故への対応に限ると、「評価する」16%、「評価しない」67%となり、さらに厳しい視線が注がれている。これが選挙結果に反映しないことはあり得ない。それに「しっかりやってきている」のは、菅ではない。東電、警察、自衛隊、消防の「現場」、それに被災者自身だ。首相官邸から発せられたのは、初期対応の甘さと事実誤認ばかりだった。菅は「東日本はつぶれる」「20年は住めない」などの馬鹿な発言を繰り返し、自身が「風評」源になったくらいだ。小野寺五典は、菅が在日韓国人から政治献金をもらっていたことについて、「いつのまにかこっそりと返していた」と指摘した。
これに対して、菅は「私は日本の方だと思っていた。弁護士が公的文書で国籍が日本でないことを確認した上で、私に代わってお返ししたのであって、こっそり何かやったということではない」と弁明した。しかし、それではなぜ返金したことを公式に発表しなかったのか。震災のどさくさ紛れのほおかむりと受け取るのが自然ではないか。「前原辞任」の二の舞になるのを恐れたのではないのか。発言や弁明の大半が論理破綻しているのだ。佐藤内閣以来の官邸の主をいろいろ見てきたが、政権末期には「暗愚のテイオー」とされた鈴木善幸でさえ、菅よりはよほどましだった。戦中、戦後の激動期をくぐり抜けてきた日本の首相は、吉田茂にせよ、鳩山一郎、池田勇人、佐藤栄作、その後の三角大福中にせよ、みな一本筋が通っていた。このうちの誰が今回の大震災に直面しても、見事にその任務をこなしたであろう。それが竹下登あたりから“やわ”になり始めて、少し小泉純一郎で挽回したものの、今は前首相・鳩山由紀夫と並んで、究極の“やわ”に立ち至った。それにつけてもしっかりした後継はいないものか。
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