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2011-04-29 00:00
組織のトップは、自ら発信せよ
平林 博
団体・会社役員、元外交官
東日本大震災と福島原発事故は世界でもまれにみる重大災害であり、世界的な同情と支援の輪を広げた。これまでも、日本や日本人は、戦後の平和的な行き方、優れた製品や信頼されるサービス、約束と信義を守る生き方、世界各国への政府開発援助(ODA)などにより、国際社会において高く評価されてきた。今回、未曾有の国難に際して示した日本人の道義心の強さ、忍耐強さ、他を思いやる心等は、世界的な称賛の的となった。震災地の悲惨な映像と、これと対照的に悲しみをこらえながら耐える日本人は、映像を通じて強烈な発信力となり、日本および日本人の国際的評価を高めているのである。しかし、政府や東電による福島第一原発事故への対応は、どうであろうか。福島第一原発事故においては、枝野官房長官と西山原子力保安院審議官は連日メディアに発信しており、対応の巧拙はあるが、その努力と勇気は多としたい。
しかし、菅総理が自ら語ることは少なく、その発信力は極めて弱い。国内への発信は官房長官、世界に向けた発信は内閣副広報官に委ねている。国民や国際社会が求めている、特に放射能汚染に関わる正確な情報の絶え間ない発信、特にトップからの説明が不十分なために、風評被害が広がり、わが国の輸出や人の往来を阻害している。このままでは、国際社会の反応は、同情からフラストレーションに変わる可能性がある。菅総理は、毎日とは言わないが、定期的に、かつ必要があればその都度、自らが記者会見を開き、発信すべきである。その際は、原子力問題について正確に権威をもって語れる専門家を傍らに置くとともに、同時通訳を使い、英語での発信も行うべきである。国民のみならず、世界に向けて、英語で発信されるのであるから、翻訳してもはっきりと真意が伝わるように、十分に理解し、咀嚼し、また何度かの練習を経たうえでの記者会見とする、のが望ましい。
発信力の欠如ないし不足は、政治家だけではない。東電も、一時勝俣会長が対応したが、清水社長は、体調を崩したとはいえ、陣頭指揮をとって対応する姿を長い間見せることなく、副社長や技術者に任せていた。世界のトヨタは、昨年、米国において大規模リコール問題に直面した。その原因とされた急発進事故は、その後の調査でトヨタの自動車自体の欠陥ではなく運転者のミスであったことが判明したが、迅速に堂々と対応して、自己を主張することをしなかったために、屋台骨を揺るがすような事態を招来してしまった。最初は、副社長を米国に派遣したが、豊田社長が自ら発言したのは、ようやく2週間が経って、米国議会の公聴会に召喚されてからであった。
最近、ソニーは、ゲームの配信のプレイステーション・ネットワークとキュリオシティに不正アクセスを許し、世界中で7700万件もの個人情報とクレジットカード関係の秘匿情報を流出させた。そのことを1週間も公表しなかったために、各個人やクレジット会社などの自己防衛や対策を大幅に遅らせることになった。ここでも、ストリンガー会長兼CEOは自らが十分には語っていない(4月28日現在)。これらの例を通じて言えることは、わが国の多くの組織におけるトップの発信力と発信しようというガッツの不足である。説明責任の欠如でもある。大事件や大事故の際の危機管理では、このことがもたらす負の影響は極めて大きい。特に、国民の生命と安全の最高責任者である首相の発信の欠如は、深刻である。筆者は、拙書『首脳外交力;首相、あなた自身がメッセージです!』(NHK出版、2008年)において、外交における首相の発信力の重要性を指摘したが、国難とも言うべき今回の大災害への対応においては、菅総理自らの発信は死活的に重要である。心して努力してもらいたいと思う。
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