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2011-05-10 00:00
菅は「原発ドミノ倒し」に走るのか?
杉浦 正章
政治評論家
浜岡原発問題は、防潮堤の構築を急いで、遅くとも2年後には運転を再開すればよい。安全確保の施策に大騒ぎすることはない。問題は、原発事故が首相・菅直人の市民運動家としての原点を目覚めさせたことにある。さすがに影響の大きさを考えて「浜岡限定」を口にしているが、長期的には「原発ドミノ倒し」によるエネルギー政策の転換を目指しているものとしか思えない。「新エネルギー」といえば聞こえがよい。選挙もこれを争点にすれば民主党は窮地を脱せられるかもしれない。しかし、できもしない「新エネルギー」の幻想をばらまいたままの「原発ドミノ倒し」であれば、即日本経済の破綻に直結する。社会党への“先祖返り”を繰り返し、普天間で鳩山由紀夫転落のきっかけを作った社民党党首・福島瑞穂が、またまた一役買っている。菅は4月はじめから「浜岡」が起死回生の妙手になると気付いていたようだが、最終的に決断したのは「浜岡停止」を迫った5月2日の福島の代表質問だったようだ。その後も福島は電話などで「浜岡のメリット」菅に吹き込んでいる。菅は、左翼イデオロギーを貫き通す福島に乗ってしまったのだ。
5日には経産相・海江田万里を浜岡に派遣し、準備を整えた。視察後海江田は、今月中頃に浜岡原発の緊急策が妥当かどうかの結論を出す方針を明らかにしたが、菅は何と翌日の6日に一足飛びに「浜岡停止」を発表してしまったのだ。欣喜雀躍したのは社民党と共産党と朝日新聞だ。もろ手を挙げて歓迎し、朝日は7日付の社説でなんと率先して「原発ドミノ倒し」を主張したのだ。「原発、危ないなら止める」と題する社説で「ハイリスクと懸念される原発は、浜岡以外にもある。危険性の高い原発を仕分けする必要がある。『危ない原発』なら深慮をもって止めるという道への一歩にしたい」と、さらなる原発停止を求めた。現在日本には54基の原発があり、このうち震災で停止が14基。定期検査で停止が17基で、これに浜岡の2基が加わる。13か月ごとに定期検査をするから、さらに14基が定期検査予定だ。原発絶対阻止の市民運動グループは、菅の停止要請に勢いづいて「原発稼働ゼロ」を目指しており、停止中の原発の再開阻止をそのきっかけにすべく、各地で運動を起こしている。「ドミノ倒し」を合い言葉に、今後大きなムーブメントに発展して行くことは避けられないだろう。
この菅の「市民運動家返り」に加えて、もっとも違和感を感ずるのは、保身しか考えない決定の過程である。連休明けの「菅降ろし」を意識して、エネルギー戦略の転換にもつながる超重要課題を、閣議にもかけずに発表した手続きからも、いかに菅が焦ったかが分かる。菅は、海江田の浜岡視察をきっかけに、方針が漏れて党内や閣内から慎重論や反対論が出るのを恐れたのだ。さすがに経団連会長・米倉弘昌は看破している。「民主党政権は結論に至る思考の過程がブラックボックスに入っている。民主党政権になってから、結論だけがぽろっと出る。唐突感は否めない。だれがどう議論したのか。詳しく国民に根拠を示し、説明すべきだ」と本質を切っているのだ。この「唐突感は否めない」は、臆面もなく「首相英断」と賛美した静岡県知事を除いて、原発を抱える道県知事の共通した認識でもある。北海道、福井、石川、島根、愛媛、それに佐賀の各知事も、再稼働について、国による詳しい説明がないことから、「唐突だ」、「判断ができない」と反発している。
「唐突感は否めない」という米倉の発言は、「(菅の)保身策だから、信用出来ない」と婉曲に言っているにすぎない。要するに「浜岡」のケースも、菅の「独断専行の習癖」が出たのだ。誰にも相談なしの消費税導入から始まって、中国船船長釈放、谷垣への電話による大連立呼びかけなど、一連の政治手法の延長線上のものだ。今回の特徴は、原発事故を逆手にとって、それを水戸黄門の印籠のようにかざして国民の危機感をあおり、大衆の支持を得ようとする底意が見られるのだ。原発事故の深刻さをパフォーマンスに利用したとしかい言いようがない。大衆の象徴であるテレビ・コメンテーターたちは、ひっかかって一斉に「大英断」と賛美しているが、普通の首相だったら誰でも気付くような問題を、実施に移したからといって、それを「大英断」とは言わない。
かくなる上は、サミットで菅が「新エネルギーでの代替」などとぶって、各国首脳から「ほう、日本には、原発に代わる大発明があるのか」と軽蔑されないよう、祈るばかりだ。原発による5千万キロワットの電力を太陽光でまかなうには、東京と大阪を合わせた面積が必要との試算もある。現在の科学技術では不可能な領域なのだ。福島の原発事故は、政治家の政治的思惑に“活用”すべきものなどではなく、より安全な原発への脱皮を目指す“聖域”ととらえるべきものなのだ。菅の意図する流れは「原発ドミノ倒し」→「産業界パニック」→「原発大不況」へと直結しかねない。慌てて官房副長官・仙谷由人が「私どもの原発戦略としては、原発を堅持する」と水をかけはじめたのは、そこに気づいたからに他ならない。菅も「浜岡は特別なケース」とマッチポンプに懸命だが、とても信用出来ないうえに、警戒しなければなるまい。今週行われる集中審議で、野党は“英断”の背後を突くだろう。
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