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2011-05-31 00:00
(連載)米外交官による日本の対露政策批判(1)
袴田 茂樹
青山学院大学教授
5月10日付けの朝日新聞が「米外交官は日本の対露政策を如何に批判しているか」について報じた。情報源はウィキリークス情報だが、記事によれば、米外交官は「北方領土問題に関しては、日本政府には戦略も、指導力もなく、経済やエネルギー関係の方を重視している」として、日本政府の「本気度」を疑っている。さらに、記事は「米外交官は、日本政府がメドベージェフ大統領に期待あるいは幻想を抱いていることを、ナイーブだと批判している」とも伝えている。といっても、これらは筆者やその仲間がこれまで一貫して主張してきたことであり、われわれにとっては常識で、特に新味はない。
朝日新聞がこのウィキリークスを独自の努力で取り上げたことは高く評価できるが、問題点もある。それは、鈴木宗男関連の情報にも絡めて、朝日の報道全体が、あたかも日本側の柔軟姿勢欠如が問題であるかのごとき記事構成になっているからだ。朝日の解説では、「メドベージェフ大統領は独創的で型にはまらないアプローチが必要との考えを示したのに、麻生首相など日本側の強硬発言でロシアが態度を硬化させた」という、基本的に間違った(その理由は後述)認識を示している。これに続いて「日本は従来の路線を考え直す時に来ているのではないか」との専門家の言葉を載せているが、この文脈で読むと、「日本は従来の強硬路線を改めて柔軟に対応すべき」、あるいは、「領土問題よりも経済、文化交流により力を注ぐべき」という意味になる。米外交官が、日本政府は経済関係にもっぱら関心を向け、北方領土問題は本気とは思えない、と評価しているのと対照的だ。
もう一つ指摘しておきたいことがある。それは、朝日新聞では報じられていないことであるが、ウィキリークスは対露政策に関して、ほとんどの日本のシンクタンクや外務省も首相への政策指針を出さず、日本の学者などの議論は、実践的意味のない空論だと酷評していることだ。ただ、注目すべき例外として、小生が主査としてまとめた日本国際フォーラムの対露政策に対する提言を取り上げ、高く評価している。ここでは、われわれが領土問題を念頭におくと共に、より広い視野で問題提起していることも具体的に指摘している。以下に、該当箇所のウィキリークス情報の英語原文を紹介する。
9. (S) Few Japanese organizations, thinktanks, or other entities are developing any policy direction including the Foreign Ministry. Unfortunately, most Japanese academic debate about the Northern Territories is mired in tired, decades-old debates, which have no practical application to finding a solution to the Northern Territories problem today.
10. (S) One noteworthy exception to the stagnant thinking which permeates the academic community's approach to Russia comes from the Policy Council of the Japan Forum on International Relations, a policy formulation group headed by Kenichi Ito. In February 2008, a Policy Council sub-team led by Professor Shigeki Hakamada drafted a set of policy recommendations which, while relying on several well-worn arguments about history and sovereignty, nevertheless called on Japan to monitor divergences in the Russia-PRC relationship, particularly with regard to energy resources, trade, and Central Asia, for opportunities to advance Tokyo's relations vis-a-vis Moscow.(つづく)
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