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2011-06-02 00:00
ポーランドをめぐるロシアと欧米のせめぎ合い
河村 洋
NGOニュー・グローバル・アメリカ代表
バラク・オバマ大統領は去る5月末にアイルランドを始めとして、イギリス、フランス、ポーランドへの訪欧の途についた。カーネギー国際平和財団ヨーロッパ・センターのヤン・テカウ所長は「オバマ氏のポーランド訪問は、安全保障の観点から、イギリスでのリビア戦略の協議にも、フランスでのG8ドービル・サミットにも劣らず、重要な意味合いがある」と述べている。20世紀以来、ポーランドの歴史はヨーロッパの歴史であると言っても過言ではない。第二次世界大戦はここから始まった。ポーランドをめぐる戦争中の英ソ対立は冷戦に発展していった。レフ・ワレサ氏が主導した『連帯』運動はベルリンの壁崩壊の先駆けとなった。
テカウ氏によると、オバマ氏のポーランド訪問によって、中央ヨーロッパ諸国に広まっている「アメリカはNATOの東方諸国を犠牲にしてロシアとの関係リセットに走っているのではないか」という懸念の緩和が期待されているという。アメリカが東欧周辺諸国に安全保障の傘の提供を再保証すれば、大西洋同盟はより強化されるだろう。ポーランドから見れば、ミサイル防衛システムを当地から引き揚げるというオバマ氏の決断は、ロシアへの宥和に映ってしまう。ポーランドを宥めるために、アメリカの戦闘機部隊が2013年より駐留することになる。テカウ氏が主張するように、アメリカとヨーロッパの強固な同盟関係は、世界の平和と繁栄の鍵である。新興経済諸国の台頭はあるものの、グローバルな政策形成の原則、アイデア、メカニズムを作れるのは西側だけである。オバマ氏のポーランド訪問は、米欧同盟と対露パワー・ゲームに重要な意味合いを持つ。
現在、ロシアと欧米の関係は非常に微妙で、複雑である。双方とも、昨年11月のNATOリスボン首脳会議の宣言で謳われたように、安全保障での協力関係を深めている。しかし、他方で、グローバルな政策形成に関する双方の基本的な見解は全く異なっている。欧米が自由主義世界秩序の拡大を望むのに対し、ロシアは政治力と価値観の多極化された世界を模索している。また、ロシアと欧米の地政学的な競合も依然として衰える気配はない。ドービルでは、オバマ大統領のポーランド訪問を前に、ロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領は、ミサイル迎撃施設がロシアを標的にしないという保証を要求する一方で、NATO主導によるカダフィ政権打倒のための対リビア攻撃への支持を表明した。
オバマ氏の大統領選挙で外交政策顧問を務めたマーク・ブレジンスキー氏は、「ロシアとポーランドの関係改善は長い時間が必要で、『カチンの森の虐殺』をめぐる両国の歴史認識の違いが影を落としている」という。ブレジンスキー氏が『ニューヨーク・タイムズ』紙に寄稿した論文では、ポーランドは前世紀と同様に21世紀も「ロシアと欧米の地政学的競合の鍵を握る国」であることが述べられている。ポーランドのドナルド・トゥスク首相との会談後の記者会見で、オバマ大統領はポーランドをアラブ諸国の民主化のモデルだと称賛した。またポーランドの国防へのアメリカの関与も保証した。
オバマ・トゥスク会談で議題にのぼったのは、ロシアだけではない。エネルギーと貿易のような経済問題からアフガニスタンの治安問題と共に、ベラルーシでの市民社会への抑圧も話し合われた。東ヨーロッパの安全保障は依然として予断を許さない。ドービル・サミットではロシアと欧米の関係のリセットが進んだかも知れないが、この「デタント」は東西の地政学的な緊張関係を完全に緩和したわけではない。よってポーランド、チェコ、ルーマニアといったNATOの東方フロンティア諸国と旧ソ連諸国の関係を注視し続ける必要がある。
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