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2011-06-07 00:00
月内退陣加速で、しぼみ始めた「大連立」
杉浦 正章
政治評論家
居座りを策した首相・菅直人の月内退陣論が加速してきたが、これに反比例するかのように大連立構想はしぼみ始めた。確かに民主・自民両党幹事長が6月5日、異口同音に「大連立」を言い出した背景には、「菅の早期退陣狙い」とつながる思惑があった。自民党幹事長・石原伸晃が「退陣しなければ大連立が実現しない」と主張、これに民主党幹事長・岡田克也が付和雷同的に反応した結果である。しかし、菅がほぼ「観念」した現状では、事情が異なる。早期解散を狙う自民党戦略と、逆に遅らせたい民主党の双方にとって、大連立は実現しにくいのだ。「菅首相」でなければ、大震災での与野党合意は格段と容易になるから、あえて困難ににチャレンジする必要もない。その本音が出始めたといえる。。
まずかねてから「菅抜き大連立」を主張していた自民党総裁・谷垣禎一が慎重論に転じた。6日「今の段階ではまだ早い。民主党は、権力闘争の真っ最中で、その結果、何が出てくるのか分からない。民主党内で政策の方向性を打ち出していける体制ができるのかどうか、を見ないといけない。無原則な話であってはならない」と言い出した。確かに政策のすりあわせがないままの、大連立となれば、すぐに破綻する。谷垣は民主党が子ども手当などマニフェストの「4K」で譲歩できるのかと言っているのだ。譲歩がなければ政策合意ができない。ところが元代表・小沢一郎らがマニフェスト至上主義だ。この難関は大きい。
さらに大連立となれば、近く結論が出る「社会保障と税の一体改革」、つまり消費税の扱いがすぐに課題となる。岡田も、石原も、テーマとして掲げている。しかし大震災復旧・復興のどさくさに紛れて、消費税増税を決めるようなことが可能だろうか。むしろ復興より消費増税のための大連立の色彩が強くなりすぎ、世論の反発は避けられない。加えて大連立政権は夏以降、来年度予算案の編成に否応なしに取り組まなければならない。ここでも民主、自民両党の路線上の対立が表面化せざるを得ない。早期解散を狙う自民党にしてみれば、一緒に作った予算案を来年の通常国会で追及するわけにもいくまい。解散のとっかかりをつかめぬまま来年の通常国会終了までの1年が過ぎてしまうことになり、これは戦略上最大の盲点となる。
石原の言うように「大震災の復旧・復興に絞った3か月か、長くて半年の大連立」という期間限定の可能性は確かにあり得るが、その場合もやはり予算編成がネックとなる。予算編成を棚上げにして個個の政策の成案を得るわけにはいかない。本末転倒となる。逆に復興・復旧だけを目指すなら、与野党合意で早期成立を実現した「1次補正方式」で合意をすれば、2次補正も、特例公債法案も、早期成立が可能だ。公明党代表の山口那津男も6日「連立政権をつくるということは、政権運営全体に責任を持つということだ。基本政策が合わないとしたら、政権が瓦解(がかい)してしまうとも限らない」と指摘している。さらに「建設的な与野党協議の場を国会につくり、そこで協力していくことを基本にすべきだ」と政策ごとの部分連合を主張している。
今後の日程を見ても、菅が早期退陣して新政権がスタートするまでには、事実上2か月の政治空白ができると予想される。この間の被災地の窮状を考慮するなら、いまから大連立の政策合意を目指して延々と“神学論争”を続けるより、2次補正を早期に編成し、公債法案の成立を図る与野党合意を目指す方が手っ取り早いだろう。この合意は、首相が菅以外なら格段と実現可能となるはずだ。自民党の本音は閣外協力でもよいのだ。一方で、菅は石井一に「谷垣を首相にすることは、解散権を握られるのであり得ない」と述べたといわれる。民主党内には大連立によって自民党主導による早期解散となることへの警戒心が強い。大連立の思惑はこれから激化するであろう「解散綱引き」と密接に絡んできたのだ。小選挙区制度で「選挙区激突・中央連立」の矛盾がいまから出てきているようでは、大連立が果たして被災者のためになるのかどうか、もおぼつかなくなってきたのが実情だろう。大連立をして、一定期間“仲良く”過ごした上で、今度は解散・総選挙で“大げんか”という都合のいい展開ができるかどうか疑わしくなってきた。
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