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2011-06-13 00:00
シーレーンに高まる軍事的緊張
鍋嶋 敬三
評論家
中東から日本への石油輸入の重要な海上交通路(シーレーン)である南シナ海で中国とフィリピン、ベトナムなどとの領有権争いがエスカレート、軍事的緊張が高まってきた。石油、天然ガスの海底資源開発を巡り中国の艦船と両国の漁船や石油探査船との対立事件が今年に入ってからも頻繁に起きている。2010年9月、東シナ海の尖閣諸島沖での海上保安庁巡視船に対する中国漁船による衝突事件と軌を一にする動きである。シーレーンでの対立激化は日本の安全保障上も看過できない。沖縄周辺海域でも中国海軍の艦艇11隻が6月8日から9日にかけて東シナ海から太平洋に抜け、活動を活発化させている。ベトナムは海上実弾射撃演習を13日に実施すると発表し、対立が先鋭化した。3月、5月と続いて石油探査船などが中国の妨害を受けたとベトナムが非難、中国は南シナ海における管轄権を主張して真っ向対立した。6月5日にはハノイでの反中国デモを政府が黙認する一方、ロシアから「自衛のため」潜水艦6隻を購入すると発表、地域の軍拡に火が付いた。
フィリピンもデルロサリオ外相が6月7日、領有権紛争で「最も深刻な挑戦」に直面しているとの声明を発表、東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国が2002年に合意した南シナ海における新たな領有権争いを抑制する「行動宣言」に法的拘束力を持たせた「行動規範」の策定を主張した。中国は7月に南シナ海で新たな石油掘削装置を建設する計画が伝えられている。中国はシンガポールで6月初め開かれた「アジア安全保障会議(シャングリラ対話)」に初めて梁光烈国防相を出席させた。急激な軍事的膨張と、尖閣事件に見られたような一方的な主張に基づく行動が、アジア諸国からの強い警戒感を呼び起こしたことを意識したのは間違いない。梁国防相は国際的な協調による「平和的台頭」が国家戦略であり、中国の軍事力は「防衛的性格」のものと強調した。しかし、軍事費が昨年比12%以上の急増、ステルス戦闘機の初飛行や空母の建造、米空母の接近を拒否する新たな対艦弾道ミサイル(ASBM)の開発など、目白押しの戦闘力強化を急ぐ中国に対して、アジア諸国は言葉通りに受け取ってはいない。
中国の海洋進出に対処する軍事的能力に欠ける東南アジア諸国にとって、頼みの綱は米軍の存在である。フィリピンのガズミン国防相は南シナ海における「米軍の存在こそ抑止力になる」と言う。ゲーツ米国防長官は最新鋭の沿岸用戦闘艦のシンガポールへの配備を明らかにした。米国は南シナ海を「戦略的に極めて重要な地域」ととらえている。今後、この地域での米中のせめぎ合いはますます強まるだろう。尖閣事件の後、米国は「尖閣諸島は日米安全保障条約の適用範囲である」との見解を示した。条約に基づく日本、フィリピン、オーストラリアとの安全保障関係や友好国との協力を軸にしたアジア太平洋地域での米軍の存在こそ、中国の軍事的進出に対する唯一の抑止力である。
「菅下ろし」で党内政局に明け暮れる民主党政権の幹部たちは、日本の安全保障に直結するこの地域の緊張激化を直視しているのだろうか。尖閣であれ北方領土や竹島であれ、自国の領土・領海主権や排他的経済水域(EEZ)の海洋権益を侵害しようとする他国の動きに対して、断固として公にはねつける毅然とした意思を常に示さなければ、第三国や国際社会からも主権を守る意志薄弱と見なされて、決定的な国益を失う。軍事力の強化を誇示する中国に対して、弱い立場のベトナムやフィリピンが示した国益擁護の強い姿勢は、独立国としての矜持(きょうじ)を国際社会に対して示したものだ。日本は領土主権を守るためにも米国との同盟関係をさらに強める具体的な戦略を練り上げる時である。
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